取材・文/沢木文

親は「普通に育てたつもりなのに」と考えていても、子どもは「親のせいで不幸になった」ととらえる親子が増えている。本連載では、ロストジェネレーション世代(1970代~80年代前半生まれ)のロスジェネの子どもがいる親、もしくは当事者に話を伺い、 “8050問題” へつながる家族の貧困と親子問題の根幹を探っていく。

* * *

夫が息子の発達困難を受け入れていれば……

丸山陽子さん(仮名・70歳)は、「末っ子長男」に手を焼いているという。

「長男といっても、もう40歳。夫が3年前に亡くなってからは、遺産も入って我が物顔で暮らしていますよ」とため息をつく。まずは、家族背景について質問した。

「上に2人お姉ちゃんがいて、長女はバツイチで娘が1人いるキャリアウーマン。ずっと海外にいて、アメリカの男性と結婚したから、孫ちゃんはハーフでかわいいのよ。今は長女とニューヨークに住んでいて、もう15歳。コロナになるまでは年に2回はこっちに帰ってきていたんだけど、今は毎週のようにLINEとかZoomで話をしているの」

そう言って差し出したスマホの画面には、まさに海外らしい高校で仲間たちと笑っている10代の女性がうつっていた。手足が長く健康的な容姿をしており、帰国して表参道や原宿を歩いていると、芸能事務所のスカウトの声がかかるという。

「私は3人子供を産んだけれど、希望は、この長女と孫ちゃんだけ。後の2人は話したくもないくらい。60代の時にある“先生”(スピリチュアル)のところに行って、“あなたと魂が共鳴しているのは、長女だけです”と言われて納得。次女と息子は夫の子だと思っています」

母親にそこまで切り離される子供たち。そもそも、息子が悪いのだという。

「生まれたときは、待望の男ですよ。今の人はどう思うかわからないけれど、私は息子を生んだ時、“あ、これで嫁としての務めは果たした”って思ったんですよね。バカバカしい。でも、この子がホントに育てにくかった」

夜泣きがひどいことから始まり、こだわりが異常に強い。思い通りにいかないとキレて泣き続ける。幼稚園に入ってからは、先生に嫌がらせをする。友達に暴力をふるってケガをさせるなど日常茶飯事だった。

「今でいうところの“発達に困難を抱える子”だったんですよ。しかるべき医師にかかり、適切な“療育”をすればよかったんです」

療育とは、障害のある子供の発達に応じたサポートを行い、将来、自立して生活できるように援助することを言う。

「幼稚園の先生が指摘してくれたときに、まさか長男がそう言われるとは思わずショックを受けて泣いてしまったんです。それを受けて、主人が怒鳴り込んでいった。ちょっとここでは言えないような汚い言葉で、先生をののしりました。あんなことをしなければ、もしかしたら息子はまともな未来が待っていたかもしれない。先生はその翌日に、幼稚園を辞めていました」

【夫は地方で“神童”と呼ばれ、地元の篤志家の援助を受けて名門国立大学を卒業。大企業に定年まで勤めたエリートゆえに……次のページに続きます】

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