取材・文/ふじのあやこ
一緒にいるときはその存在が当たり前で、家族がいることのありがたみを感じることは少ない。子の独立、死別、両親の離婚など、別々に暮らすようになってから、一緒に暮らせなくなってからわかる、家族の大切さ。過去と今の関係性の変化を当時者に語ってもらう。
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自殺対策基本法において、毎年3月は「自殺対策強化月間」とされている。3月に定められている理由は、例年自殺者が多い傾向にあるからだ。3月は就職や転勤、進学などで生活環境が大きく変化してストレスを抱えることが要因の1つだと考えられている。令和5年の月別の自殺者数も3月(2,031人)が最多となっている(厚生労働省:令和5年中における自殺の状況(令和6年3月29日発表))。
今回お話を伺った律子さん(仮名・40歳)は、付き合っていた男性と同棲を始めようとしたときに彼の異常なほどの親への憎しみを知る。母親から同棲を心配されたが、いつもの優しい彼の姿を信じて、同棲をスタートさせていた。【~その1~はコチラ】
同棲生活を別れとともに解消、その後自殺を図る
同棲中に大きなケンカはなかったが、相手が生活音にイライラすることが増え、不眠を訴えられたときに寄り添えなくなっていったという。
「今振り返ると、彼には精神面の不調があったんだと思います。でも、私のキッチンでの音や足音などに、『もう少し音がしないようにできない?』とイライラをぶつけるように言われるようになって、私もそんな発言をする相手にイライラしていくようになりました。
彼は不眠気味で夜中によく起きることがあったんですが、相手が起きたときの動きなどで私も起こされることが多くて。最初は我慢していたけれど、イライラをぶつけられ続けたことで私も相手に対して寛容な気持ちがなくなって文句を言うようになっていきました」
相手が不眠に加え、食欲がなくなっていったことにより、律子さんは相談に乗ろうとしたり、病院を勧めたこともあったが、はっきりと断ってくる姿にイライラはピークに達し、それが離れるきっかけになる。
「心配して、相談に乗りたかったのに、『相談しても意味ない』とか『俺の仕事なんてわからないでしょう』とバッサリ切り捨てられるんです。それなのに、仕事の愚痴を独り言のようにつぶやくようになり、眠れないなら病院へ行ったほうがいいと伝えると『病人扱いするな!』って。それで、もうダメだって思いました。
お互い面倒なことは避ける性格なので、ケンカにはならないけれど、静かに修復不可能なぐらいの距離が開いていく感じがしました。別れは、私のほうから伝えました」
別れ話に対して、彼は「わかった」と受け入れたのみ。その2週間後に2人が同棲していたマンションの一室で自殺未遂を図る。
「別れ話では、彼は一切取り乱すことなく、受け入れてくれました。『優しくできなくてごめん』と謝っていました。私も謝罪して、最後はお互いに笑顔で別れたんです。
彼はそのマンションしか家がないので、私が実家に戻り、マンションは彼名義だったこともあって退去は任せました。そのマンションの一室で、彼はオーバードーズをしました。彼との共通の友人から連絡があって知り、私は“なぜ?”という気持ちでいっぱいでした」
【親は何も言ってこなかった。次ページに続きます】