取材・文/ふじのあやこ
一緒にいるときはその存在が当たり前で、家族がいることのありがたみを感じることは少ない。子の独立、死別、両親の離婚など、別々に暮らすようになってから、一緒に暮らせなくなってからわかる、家族の大切さ。過去と今の関係性の変化を当時者に語ってもらう。
*
自殺対策基本法において、毎年3月は「自殺対策強化月間」とされている。3月に定められている理由は、例年自殺者が多い傾向にあるからだ。3月は就職や転勤、進学などで生活環境が大きく変化してストレスを抱えることが要因の1つだと考えられている。令和5年の月別の自殺者数も3月(2,031人)が最多となっている(厚生労働省:令和5年中における自殺の状況(令和6年3月29日発表))。
今回お話を伺った律子さん(仮名・40歳)は、過去に付き合っていた男性と別れてしばらくした後に相手が自殺未遂をした過去がある。
受け身なことが多く、相談相手は母親だけだった
律子さんは両親との3人家族。優しい父親と、厳しいものの過保護ではなく、律子さんがしたいことを尊重してくれる母親の元で育ち、何かを思い悩んで眠れないなどの経験は一切ない学生時代を送っていたと振り返る。
「あまり深く考えないタイプというか、学生時代は友人関係の悩みはもちろんありましたが眠れないことはなく、寝たら気持ちはリセットできたという感じでした。私は友人にあまり自分のことを話すのが好きじゃないんです。友人を信じていないわけではないけれど、わざわざ言う必要はないかなと。自分のことを聞かれたら話すのですが、それ以外では話さないから、友人からは秘密主義者だと思われていたみたいです。
そんなあまり悩まない私でも、何か辛いことがあると母親に相談していました。母親は私の話を最後まで聞いてくれました。それだけで十分だったんです」
初めての彼氏は高校のときにできるも、彼氏を特別扱いすることができずに律子さんはフラれることが多かったという。
「彼氏ができたからって、自分のペースを崩すのが嫌だったんです。付き合うまで放課後は友人と過ごすことが多かったのに、彼氏ができた途端に彼氏を優先するのはおかしいと思って。だって、友人と彼氏のどちらかがより大事とかないじゃないですか。それでも彼とはちゃんと好きで付き合っていたのに、『別れたいんでしょう?』みたいなことを言われて、フラれることが多かったです」
短期間でフラれることが多かった中、初めて長く付き合ったのが自殺未遂を図った彼だった。
「彼とは社会人になってから、友人の紹介で出会いました。厳密にいうと、友人の彼氏の知り合いでした。相手は2歳上で、お互いお酒が好きなところで意気投合して、何度か2人で会った後に付き合うようになりました。
彼は一緒にいると穏やかな感じなのですが、少し束縛が激しかった。でも、怒りをぶつけられるというよりも、『連絡取れなかったから心配した』というように思いやりを感じられたのでそこまで苦ではありませんでした。私が自分から連絡するタイプじゃなかったから、相手から連絡してくれるところも合っていたんだと思います」
【彼は自分の親のことを「親ではなく血のつながった他人」と言った。次ページに続きます】