取材・文/沢木文

親は「普通に育てたつもりなのに」と考えていても、子どもは「親のせいで不幸になった」ととらえる親子が増えている。本連載では、ロストジェネレーション世代(1970代~80年代前半生まれ)のロスジェネの子どもがいる親、もしくは当事者に話を伺い、 “8050問題” へつながる家族の貧困と親子問題の根幹を探っていく。

* * *

現在、東京都23区内に住む磯谷幸三さん(仮名・72歳)の“手がかからない自慢の娘”(42歳)は、17年前に大金持ちに見初められて結婚していた。

不良行為を繰り返す兄、おとなしく真面目な妹

今、幸三さんは娘のことで悩んでいるという。

「それまで全く手がかからない娘でした。2歳上に息子がいるのですが、こちらは手がかかった。小さい頃から“癇の虫”が激しく、気に入らないことがあると暴れた。友達をケガさせてしまうことも多く、家内は友達の家に行って謝っている日々だったそうです。私は仕事がとにかく忙しく、家のことは家内に任せっきりにしていました」

幸三さんの妻は、兄に対して手ひどい折檻をしたこともあったという。

「愛の鞭ってやつですよ。家内は気が強く、完璧主義。中学を卒業し、東北から東京に出てきて、喫茶店の店員さんになって、夜学で高校と大学を卒業して、そこの運営会社の社員になった苦労人。給料の大半を実家に仕送りしていた孝行娘なんですよ。だから息子のことは許せなかったのではないかな」

幸三さんは大手機械メーカーのエンジニアだ。高専を卒業してからずっと、そのメーカーに勤務し、65歳まで勤め上げた。

「今の会社と違って、社員住宅があり、社員運動会、社員旅行と社員が一丸となって頑張る時代だった。今の日本がダメなのは、仲間がいないからだと思う。コロナだからって、いくらでもやりようはあると思うのにね」

しかし、家庭はチームではなかった。

「そんなことはない。家内が采配していてくれていた。家内は性格がきついところがあるけれど、本質を見ているから」

幸三さんが家庭に関与したことはほとんどなかった。幸三さんの妻は、息子をエリートに育てたかった。だから、息子への教育を熱心に行った。中学受験をさせて大学付属の中堅校に入れた。そしてそのまま大学に進学すると思いきや、息子は美容師になりたいと言い出した。

「いずれもすごい金がかかったし、家内と息子のバトルも激しかった。飲酒や喫煙で補導されたこともあったし、始末書も書かされたみたい。娘はそこでじっと息をひそめていたと思う。我慢強いんです。真面目でおとなしい。都立高校を卒業すると、自動車のディーラーに就職していた」

【地味で我慢強い娘は、10歳年上の金持ちに見初められる…次ページに続きます】

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