取材・文/沢木文
親は「普通に育てたつもりなのに」と考えていても、子どもは「親のせいで不幸になった」ととらえる親子が増えている。本連載では、ロストジェネレーション世代(1970代~80年代前半生まれ)のロスジェネの子どもがいる親、もしくは当事者に話を伺い、 “8050問題” へつながる家族の貧困と親子問題の根幹を探っていく。
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東京都墨田区に住む吉田里子さん(仮名・70歳)は、「真面目だけが取り柄だったんです」という一人息子(45歳)について、問題を抱えているという。それは息子が7年前に結婚した女性(44歳)とその連れ子(15歳)について。
国立大学の工学部を出た真面目一筋の自慢の息子
里子さん夫婦にとって、息子はずっと自慢の一粒種だったという。
「幼い頃から黙々と勉強している子でした。おとなしくて自己主張をせず、言うことを聞いている。動いたり暴れたりしないので、“よくできた息子さんね”とどこに行っても褒められていました」
あまりにも育てやすい子なので、2人目の子供は産まなかった。
「息子が3歳のときに、この子には兄弟がいた方がいいのではないかと思ったのですが、夫が“跡取りがいるんだから、もういいだろう”と。夫は私より10歳年上なので、お金のことなども不安があったんだと思います。それに、私自身も息子が余りにも育てやすかったので、2番目の子は、絶対に疳の虫がすごい暴れまわる子が生まれると確信したんです。ラクすると神様は罰を与えますからね」
息子は目立たないけれど、すくすくと育った。先生からの覚えもめでたく、どこに行ってもかわいがられた。
「自然科学に興味関心が強かった。あの子が中学校の時に実家をしまうことになって、昔の七輪を見つけたんです。それを家に持ってきて、庭先で使ってみたんです。炭火を起こして肉を焼いて食べさせたら、息子は“なんでこんなにおいしくなるんだろう”と炭火とガスの調理の差について調べたんです。水分とか温度の伝達とかそんなことを研究していました。それを夏休みのレポートで提出したら、なんかの大きな賞をもらったことを覚えています」
勉強はよくできるがスポーツはそこそこ。友達も限られた人と仲良くしており、いじめられているとか、恋をしているとかは一切なかったという。
「いい子なんですよ。都立の進学校にすんなり入って、現役で国立大学の工学部に入りましたから。親孝行ですよね。好きな道に進んで、いい会社にも入って、言うことはないです」
【息子は“全親の憧れ”ともいうべき性格とスペックを持っているが、その背景にはなにがあったのか……次のページに続きます】