■ヴォーカル表現の拡張

今を遡ること90年余り、1926年のことでした。サッチモはレコーディングの際に歌詞カードを落としたと称し「ウヴィ・ダヴァ」と、いわゆる「スキャット・ヴォーカル」を初めて披露したのです。このエピソードをもって、彼は「ジャズ・ヴォーカルの開祖」とされているのですね。

その理由は、「歌」を歌詞に限定されずに自由に旋律を変えることによって、「自分らしさ」をより強力にアピールすること、これこそが「ジャズ・ヴォーカル」の最大の特徴だからです。そしてそのジャズ・ヴォーカルの特徴とされるものは、「器楽ジャズ」でも同じなのです。

19世紀末にニューオルリンズで自然発生したとされる「ジャズ」は、録音が残っていないのでどんな音楽だったのか、ほんとうのところはいまだに解明されてはいません。しかし、「その音楽を聴いて育った人たち」の演奏はちゃんと記録されているのです。

先ほど挙げた「初めてのスキャット」が録音された楽曲「ヒービー・ジービーズ」は、ルイ・アームストロングの「ホット・ファイヴ」というバンドによって演奏されているのですが、彼らの演奏は初期の「ジャズ」を継承していると考えていいでしょう。というのも、今回の主人公、ルイ・アームストロング自身がジャズ誕生の地、ニューオルリンズで生まれ育っているのです。

この「ホット・ファイヴ」のサッチモのコルネット(トランペットの親戚楽器)を聴くと、明らかな特徴があるのです。あたかも楽器が「人の声」のようにナマナマしく迫ってくるのです。

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※隔週刊CDつきマガジン『JAZZ VOCAL COLLECTION』(ジャズ・ヴォーカル・コレクション)の第34号「ルイ・アームストロングvol.2」(監修:後藤雅洋、サライ責任編集、小学館刊)が発売中です。

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