毎年、漢字の日(※12月12日。「いい字を1字覚えてほしい」という願いから“12(いいじ)月12(いちじ)日”の語呂合わせで制定。)の前後に発表される「今年の漢字」。日本漢字能力検定協会が、その年の世相を表す漢字ひと文字を公募し、多数決で選出され、今年で30回を迎える。清水寺の森清範貫主が大きな和紙に揮毫する姿は多くのメディアが取り上げ、テレビ中継もされる年末の風物詩だ。
「今年の漢字」を発案したのが、漢字博物館・図書館参与の大野博史さんである。大野さんが日本漢字能力検定協会に転職したのは1992年のこと。ちょうど協会が設立された年だ。漢検の知名度を上げるべく、広報として様々な努力をした。
「中学校や高校に赴いて検定試験のことをアピールする際に、なにか売りがあれば突破口になると考え、“今日の漢字”を閃きました」
今日の漢字とは、毎日ひとつの漢字を更新し、協会が入っていたビルに掲げるというアイデアだ。
「面白いと思ったものの、365日分の漢字を誰が選ぶのか、根拠のない漢字を取り上げても、反響はないかもしれないとも考えました」
すると、こんな声が聞こえた。
「今日じゃなく“今年”なら面白いんとちゃう? 年の瀬に一年を振り返り、新年はよい年であるようにと願う、そんな漢字を全国から募れば話題になるだろうと計画を進めました」
飛び降りる覚悟で清水寺に
発表をどこでするのか。それが大きな課題となった。
「なにごとも最初が肝心です。飛び降りる覚悟でやらなあかん。ならばいっそ清水寺の舞台でやろうと思い立ったんです。清水寺にツテはなかったのですが、直談判したところ快諾いただきました」
揮毫するのは初回から森貫主だ。大野さんは筆と墨、和紙、画板を手配し、当日は森貫主の横で、筆に墨を含ませる担当でもある。いつの頃からかその姿は“墨爺”と称されるように。墨爺にとってこの30年で印象的な漢字は……。
「2011年の『絆』。人にとって大切なものはなにかを教えてくれた、温かくいい一字です」
●解説 大野博史さん(おおの・ひろし/漢字博物館・図書館参与・81歳)
昭和17年、京都市出身。平成4年、50歳で自身が経営していた食器輸入業から日本漢字能力検定協会へ転職。「今年の漢字」の発案者にして、発表当日の立ち会い人でもある。
一昨年までの28回分の漢字。「金」や「災」「戦」「税」など複数回1位になる漢字もあるが、同じ漢字でもその年により出来事は異なる。2021年の「金」は、東京オリンピック・パラリンピックでの日本人選手による金メダル獲得にちなみ、2012年の「金」は、932年ぶりに観測された金環日食や、年金資産運用に関連した詐欺事件や生活保護の不正受給など「お金」の不安や疑念を示す。今年の漢字から、当時を振り返ることができる。
※この記事は『サライ』本誌2024年9月号より転載しました。