「もっとウイスキーを楽しむための知識をつけてほしい」と2014年に始まった「ウイスキー検定」。真摯な造り手と正しい知識をもつ消費者が、日本のウイスキーの未来を開く。
「世界5大ウイスキーで、法定義がない日本。早急な法制化が海外から要請されています」
連続テレビ小説『マッサン』(NHK)が人気を博していた2014年12月、第1回「ウイスキー検定」(※ウイスキー検定の詳細はhttps://whiskykentei.comをご覧ください。)が実施された。ご存知の通り『マッサン』は、日本のウイスキーの父と呼ばれる竹鶴政孝をモデルにしている。2008年のサントリー角ハイボールブーム以降、ウイスキーが身近になり、ドラマで注目度が高まる中、「ウイスキー検定」は始まった。検定を主宰するウイスキー文化研究所代表の土屋守さんは次のように話す。
「身近にありながら、ウイスキーの奥深さはほとんど知られていなかった。歴史や原料、製法、さまざまな飲み方など、知れば知るほど、ウイスキーを楽しめます。そんな知識をつけてもらいたいと『ウイスキー検定』を始めました」
以来10年、総合的な知識を問う3級〜1級と、バーボンウイスキー、シングルモルトなど、ある分野に特化した特別級が置かれ、検定は発展・成長してきた(下に前回の問題の一部を掲載)。
「累計で約3万人の方が受験されています。専門的な上級資格へ進む人も多く、手応えを感じます。今後も検定を通じ、ウイスキーの面白さを広げていきたいですね」
検定の発展・成長と軌を一にするように、日本国内に個性的なウイスキーを製造する小規模な蒸留所が多数、誕生。今や大手とともに「ジャパニーズウイスキー」として世界からも高く評価されている。だが、土屋さんは「真摯なウイスキーの造り手を、正しい知識を持った消費者が支えてほしい」と、次のような危惧を語る。
「日本は、スコットランド、アイルランド、アメリカ、カナダとともに世界5大ウイスキーのひとつといわれますが、日本だけが法律による定義を持っていません。酒税法にウイスキーについての規定はありますが、世界のウイスキーの定義から見ると不充分です」
世界の市場からの要請
酒税法を繙(ひもと)くと、原材料の生産国や貯蔵の場所、貯蔵期間などの規定はない。そのため、輸入されたウイスキー原酒で製造された商品が、海外でジャパニーズウイスキーとして流通している例もあるという。
「すでにアメリカでは訴訟も起きていると聞きます。この状態が続けば、ジャパニーズウイスキーへの信頼度が急降下しかねません」
そんな危機感から、2021年に日本洋酒酒造組合の自主基準が策定された(上の表参照)。ジャパニーズウイスキーを名乗るには、この基準を満たす必要がある。
「ただしこれは組合の内規のため、組合員でなければ適用されず、罰則規定もありません。すべての造り手が守るべきジャパニーズウイスキーの定義の法制化が急務です」
実は日本洋酒酒造組合の内規が作られたのも、土屋さんが代表を務めるウイスキー文化研究所が試案を作り、記者会見を行ない議論を巻き起こしたことが契機だった。
「今、私たちは早急な法制化に向け、国会議員へ働きかける一方、活動を広げていくためのクラウドファウンディングを通じ、広く関心を持ってもらおうと尽力しています。ジャパニーズウイスキーを一過性のブームで終わらさないために法制化は必須。世界の市場からの要請でもあるのです」
●解説 土屋 守(つちや・まもる)さん(ウイスキー文化研究所代表・70歳)
昭和29年、新潟県生まれ。学習院大学卒業。ウイスキー文化の普及に努め、1998年に「世界のウイスキー・ライター5人」に選ばれる。『モルトウイスキー大全』(小学館)ほか著書多数。
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取材・文/五反田正宏 写真/藤田修平
※この記事は『サライ』本誌2024年9月号より転載しました。