甘味の中でも和菓子、和菓子の中でも特にあんみつが好きだという六代目神田伯山さん。あんみつに魅了された稀代の講談師が、講談とあんみつの奥深い共通項について熱く語る。

甘党で、こし餡に目がないという講談師の六代目神田伯山さん。贔屓の店で好物のあんみつについて熱く語る。

あんみつのよさは歳を重ねてこそわかるもの

伝統芸能のひとつである講談。同じように高座にあがって噺(はなし)をする落語家は約1000人といわれる中、講談師の数は約100人。その講談の世界で、伝統を守りながらも、現代人の心に響く芸でその名を確固たるものにしているのが、講談師の六代目神田伯山さん(41歳)だ。聞き手の脳内に登場人物が生き生きと甦えってくるような迫力ある熱い読み口で、講談界の風雲児と呼ばれて久しい。

そんな伯山さん、実は甘党である。下戸というわけではないが、甘い物をつい求めてしまう癖があるという。

「甘い物、好きですよ。お酒と甘い物だったら、甘い物を選びますね。お付き合いでお酒を飲むことはありますが、自宅で晩酌をするといったことはないですね。職業柄、お酒を飲んだ翌日に声がうまく出なくなることも心配ですし、何より、甘い物をちょっと食べると、元気になりますからね」

甘い物は全般的に好きだが、どちらかというと洋菓子よりも和菓子が好みという伯山さん。

「こし餡の饅頭なんか、好きですね。脂質も少ないですし、高座の前にちょっと食べておくと、なんだか調子が良い気がするんです」

あんみつは30歳を過ぎてから

「子どもの頃は、祖母があんみつを食べているのを見ても、それほど欲することはなく。子どもですから、和菓子より洋菓子の方がいいや、なんて思っていたものです。だから、あんみつを好きになったのは30歳を過ぎてから。いろいろな嗜好品を食べて行き着くのがあんみつなのかもしれませんね」

伯山さんのお気に入りは、東京・上野に本店を構える『上野公園前 あんみつ みはし』である。

講談で出演するお江戸上野広小路亭に近いこともあり、たまたま前を通りかかった『みはし』にふと寄ってみたのが、伯山さんがあんみつ好きになるきっかけという。

「あんみつって、こんなに美味しいものだったのか! と驚きましたね。特にクリームあんみつが好きなんですが、ソフトクリームにこし餡、寒天、みつ豆、求肥……ひとつひとつが美味しい。みんな存在感があるのに、喧嘩せず調和しているんです。いうなれば、NBAのスーパースター軍団ですよ」

「あんみつ」は講談と同じようにライブに限る

伯山さんが好む「白玉クリームあんみつ」(890円)。ソフトクリーム、四角く切り出した餡、白玉、ミカンに、沖縄の黒糖の蜜がかかる。
白地の美濃焼の器には藍で季節の花をあしらう。創業時、地元の東京藝術大学
の学生が描いた絵で、正面はあやめという。

北米の男子バスケットボールのプロリーグに喩えて、『みはし』のクリームあんみつについて熱く語る伯山さん。

「軽いのに満足感があって、素晴らしい〈作品〉だなと思います」

『みはし』2代目の佐藤一也さん(69歳)とあんみつ談義をする伯山さん。さりげない接客やしつらいにも粋を感じると語る。

伯山さんのあんみつの魅力語りは、まだまだ続く。

「自分もこういう芸人になりたいなって思うんです。あんみつって気軽な食べ物ですよね。つまり入口が広い。『みはし』さんのあんみつはというと、その広い入口から入ったら、奥がぐんと広かった、という感じです。講談師としても、気軽に楽しめて、でも実は奥深い講談の魅力に気づいてもらえる、そんな芸人を目指しています」

講談の奥深さと『みはし』のあんみつには共通するものがあるという伯山さん。

「『みはし』さんのあんみつに魅了されて以来、あんみつを見かけると食べるようになったんですね。どのあんみつも美味しい。でも、やはり『みはし』さんに戻ってくるんですよ。いやぁ、奥が深い」

ここではみんな笑顔

伯山さんの「『みはし』のあんみつ好き」はつとに知られており、手土産に頂くことも多いそう。

「ただね、やはりあんみつは、お店で食べるに限ります。茶屋という風情の内装だとか、店員さんの対応だとか、そういったものすべてが、総合演出でお客さんに満足感を与えている気がしますね。ここであんみつを食べておるお客さんはみんな笑顔ですからね。あんみつも講談も、ライブですよ」

著名人であっても、ここではひとりのあんみつ好きとして公平に接客される。それが気持ちよく、つい、足を運ぶという。連日、行列ができている『みはし』だが、伯山さんも並ぶのだろうか。

「もちろん並びますよ。さっとあんみつを食べて、さっと立ち去ります。早く後ろの人に譲ってあげたいですからね。それにしても、『みはし』さんの回転率のいいこと。牛丼より速く出てくるんじゃないですかね。待っている間に本を読もうと思っても、5行くらいまでしか読めない。この速さも気持ちがいいですね」

時代に合わせて甘さを少し抑えるなど多少の変化はあるものの、基本的な部分は変えることなく、客をもてなしてきた『みはし』。伯山さんにとって「『みはし』のあんみつ」は同僚のような気ごころの知れた存在なのかもしれない。

六代目 神田伯山(かんだはくざん)

1983年、東京生まれ。2007年、三代目神田松鯉に入門。2012年、二ツ目昇進。講談会や寄席のみならずテレビやラジオで人気を博し、講談普及の先頭に立つ活躍をしている。2020年、六代目神田伯山を襲名。著書多数。レギュラー番組にTBSラジオ『問わず語りの神田伯山』がある。撮影/橘蓮二

上野公園前 あんみつ みはし上野本店

上野にある徳川家の菩提寺寛永寺への参道に横たわる不忍池に架けられた3つの橋が、店名の由来。優しい文字に気持ちも和む。
昭和23年の創業。写真は創業当時の店頭。

東京都台東区上野4-9-7
電話:03・3831・0384
営業時間:10時30分〜21時(20時30分最終注文)
定休日:不定
交通:JR上野駅不忍口から徒歩約3分

取材・文/平松温子 撮影/湯浅立志

※この記事は『サライ』本誌2024年9月号より転載しました。

『サライ』2024年9月号特集『「あんみつ」なら、この店』。

 

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