夏の季語である「あんみつ」。カラフルで涼しげ、どこか懐しい甘さが万人を魅了する。直球から変化球まで、味わいたい逸品を紹介する。

あんみつ850円。蜜は黒蜜と白蜜から選ぶ。しっかりした歯ざわりのミカンや風味ある桜桃など、どの素材にも妥協はない。

シルクのようにきめ細やかで上品な餡と6時間かけて炊き上げた赤えんどう豆の滋味

江戸時代初期に漁師町として発展し、富岡八幡宮の門前町として今も江戸風情が残る門前仲町。味にうるさい下町っ子が贔屓にするのが『いり江』である。昭和の初めに蒟蒻(こんにゃく)と寒天の製造を始め、昭和45年(1970)に甘味処を開店。店名は、沖に出た船が戻ってきたときにひと息つける店にしたいという思いから付けられた。

温かみのある民芸調の店の一番人気はあんみつである。寒天が隠れるほど盛り付けられるのは、きめ細かく滑らかなこし餡。そして桃やミカンなどの色鮮やかなフルーツのシロップ漬けと、中央に陣取る桜桃(さくらんぼ)が、いかにも王道らしい。

「創業時から変わったのは、黄桃が白桃になったことだけです。常に美味しい、いつもの味を心掛けています」と話す店主の渡辺正則さん。先代の味を守っている。

三味一体の老舗の味

店の2階で行なう仕込みは早朝から始まる。伊豆大島産の天草(てんぐさ)を煮込んで作った寒天はよく冷やし、使い込まれた木製の寒天突きで丁寧にサイコロ状に。餡は砂糖を加え、ほどよい甘さによく練り上げる。北海道富良野産の赤えんどう豆はとろ火で6時間ほどじっくり煮る。素材を吟味し、どれも手間のかかる作業を毎日繰り返すことで、老舗の味が完成する。

磯の香を感じる寒天とほんのり塩味のある豆を包み込むやさしい餡。三味一体の旨さである。

赤えんどう豆は火にかけて沸騰したら差し水をし、とろ火で炊く。仕上げの段階で味付けの塩を入れてなじませる。
今では珍しい木製の寒天突きで1cm四方にする。
器に合わせるようにヘラで半月形に餡を切り、盛り付ける。

いり江

情緒ある店構え。

東京都江東区門前仲町2-6-2 
電話:03・3643・1760
営業時間:11時~18時30分(最終注文18時) 
定休日:水曜(祝日、1日、15日、28日は富岡八幡宮の縁日のため営業)28席。交通:東京メトロ東西線ほか門前仲町駅より徒歩約2分

※この記事は『サライ』本誌2024年9月号より転載しました。

『サライ』2024年9月号特集『「あんみつ」なら、この店』。

 

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