道長とふたりの妻
I:道長(演・柄本佑)がやや病弱なのはよく知られた話ですが、劇中では、源明子(演・瀧内公美)の高松殿で倒れてしまいます。心の臓の病ということでした。驚いたのは、その場に源倫子(演・黒木華)が駆けつけたこと。「第二夫人」の屋敷で倒れ、その場に「正妻」が見舞いにやってくる。絵面(えづら)的には、昼ドラ風のドキドキする流れになりました。
A:こういう場面を挿入してくるとは本当にツボを心得てますよね。
行成との口約束のその後
I:さて。一条天皇に「彰子立后」を説得したのは藤原行成(演・渡辺大知)。大原野神社への祭祀に后が参列できていないことを理由にしていました。
A:ここででてきた大原野神社とは、藤原氏の氏神である奈良の春日社(現春日大社)から神を勧請して長岡京に建てられた神社のことです。もともと、藤原氏の京の都での氏神として、藤原氏の娘が入内できるよう祈願する神社とされ、願いがかなった暁には盛大にお礼参りをする習わしだったようです。それが、藤原氏出身の后が祭祀に参列するようになったというわけです。一応は出家している定子では、祭祀ができないから、ちゃんと祭祀ができる藤原氏の后が必要だ、でないと天変地異は収まらない、という理屈ですね。
I:一条天皇と道長との間で奔走していた行成は、説得に成功してほっとしていましたね。道長が藤原行成に対して、礼をいうのと同時に、行成の立身だけではなく、行成の子孫の立身まで約束する場面が描かれました。
A:これは大枠では、行成の日記『権記』にも描かれている史実になります。野暮な話ですが、その口約束がどの程度実行されたか検証してみましょう(笑)。行成は最終的には、権大納言まで昇任します。息子の行経は参議、孫の伊房も権中納言まで昇任します。この時すでに、実権は藤原氏から上皇が治天の君として院政を行なっているのですが、行成の家は、朝廷内で書道の家・世尊寺(せそんじ)家として戦国時代に断絶するまで続いていきます。
I:それなりに続いたのは、行成が献身的に道長に尽くしたおかげといっていいのですかね。
【まるでゴッドファーザーのような道長。次ページに続きます】