文/池上信次

前回(https://serai.jp/hobby/1182896)からさらに、「ライヴでのアナウンス」について続けます。マイルス・デイヴィスの自伝にはこんな記述があります。

曲名なんかどうだっていい、音楽が大切だと思ったから、この頃からアナウンスもやめてしまった。客が曲名を知っているんなら、アナウンスする必要なんてなかった。客はオレの喋りを聞きにくるんじゃない、音楽を聴きにくるんだと思ったから、客に話しかけることもやめた。多くの人が、オレをよそよそしい奴と思ったようだが、実際、そうだった。
『マイルス・デイヴィス自伝』マイルス・デイヴィス、クインシー・トゥループ著/中山康樹訳/シンコーミュージック・エンタテイメント刊より

それは1954年のこと。その5年前の1949年の回想には「パリにいる間に(中略)オレは曲名をフランス語で紹介するなんてことまでしていた。」(同前)ともあります。マイルスは観客に背を向け、ステージではMCをしないというクールなイメージが古くから定着していますが、54年以前は違っていたんですね。それまでは(マイルスですら)ステージで曲名を紹介をするのはふつうのことだったのでしょう。そのマイルスのパリでのライヴとは、タッド・ダメロンとの双頭クインテットでのもので、その放送用収録音源はのちにレコード化されました(『パリ・フェスティヴァル・インターナショナル』[Columbia])。そこには演奏にかぶせられたラジオDJのフランス語の喋りのほかに、ステージ上のミュージシャンによる曲名紹介も聞けますが、なんとこれはマイルスによるものなのでした(英語ですが)。これが、のちにマイルスのキャラクターとして知られようになるしわがれ声になる前の(ふつうの)声なので、最初にそれを知った時はそのイメージの違いに戸惑いました。

と、前置きが長くなりましたが、ライヴ・アルバムに収録されたミュージシャン自身によるMCというのは、そのアルバムのイメージ決定に大きくかかわっているのではないかと思うのですが、どうでしょう。

ミュージシャン自身のアナウンスが印象的なライヴ・アルバムをいくつか拾ってみます。


ザ・ジャズ・メッセンジャーズ『カフェ・ボヘミアのジャズ・メッセンジャーズ』(Blue Note)
演奏:アート・ブレイキー(ドラムス)、ケニー・ドーハム(トランペット)、ハンク・モブレー(テナー・サックス)、ホレス・シルヴァー(ピアノ)、ダグ・ワトキンス(ベース)
録音:1955年11月23日
ニューヨークのジャズ・クラブ「カフェ・ボヘミア」でのライヴ・アルバム。グループ名に「アート・ブレイキー・アンド」がまだ付いていない、「ザ・ジャズ・メッセンジャーズ」最初のアルバム。

『カフェ・ボヘミアのジャズ・メッセンジャーズ』(Blue Note)は、(実質リーダーの)アート・ブレイキーによるメンバー紹介がとてもていねい。ブレイキーはきっととても真面目なんですね。「ヤンゲスト、ファイネスト」のダグ・ワトキンス、「モダン・ジャズのニュー・スター」ハンク・モブレー、「チャーリー・パーカーと共演した」ケニー・ドーハムなど、「メンバーに自信あり」が伝わってくる堂々とした紹介は、これから始まる音楽への期待をふくらませてくれます。また、これらのひとことで当時の状況がうかがい知れる貴重な記録でもあります。

そして、そこにもいたケニー・ドーハムの『カフェ・ボヘミアのケニー・ドーハム(ラウンド・アバウト・ミッドナイト・アット・カフェ・ボヘミア)』(CD/Blue Note)では、ドーハムは「グッド・イヴニング、レディス・アンド・ジェントルメン」で始め、ひとりずつメンバーを紹介していきます。拍手に応えて、最後にまた「サンキュー・ヴェリー・マッチ、レディス・アンド・ジェントルメン」をくり返して曲に入るという、とてもていねいなアナウンスをしています。親分のブレイキー譲りというところでしょうか。このアナウンス後に始まるバラード「オータム・イン・ニューヨーク」のしみじみ感は、この話し方の落ち着いた印象によるところも大きいと感じます。


『ヴィレッジ・ヴァンガードの夜』(Blue Note)
演奏:ソニー・ロリンズ(テナー・サックス)、ドナルド・ベイリー(ベース)、ウィルバー・ウェア(ベース)、ピート・ラロカ(ドラムス)、エルヴィン・ジョーンズ(ドラムス)
録音:1957年11月3日
同じ編成でメンバーの違う、昼の部と夜の部のライヴから収録。ロリンズにとっても、会場のヴィレッジ・ヴァンガードにとっても「初ライヴ盤」となったアルバム。

それらとはまったく違う印象を受けるのが、ソニー・ロリンズの『ヴィレッジ・ヴァンガードの夜』(Blue Note)。このコンプリート・ヴァージョンのCDではロリンズ自身のアナウンスがたっぷり聞けるのですが、(レディス・アンド・ジェントルメンではなく)「ボーイズ・アンド・ガールズ」で始めて笑いをとったり、曲の紹介をしながら会話のやりとりをしたりと、観客との接し方がブレイキーやドーハムとはまったく違います。声の大きさも口調も、その豪快なサックスに通じるところがありますね。これらのライヴ盤を聴いていると、話し方に性格が出るのは当然としても、じつはそこにはその人の音楽もたっぷりと出ている、というか、ジャズにおいて性格と音楽は不可分、ジャズはその人そのものなのではないかと思えてきます。

(紹介した内容はCDを基準にしていますが、商品のヴァージョンによっては収録されていないものがあります。)

文/池上信次
フリーランス編集者・ライター。専門はジャズ。ライターとしては、電子書籍『サブスクで学ぶジャズ史(https://shogakukan-square.jp/studio/2021/11/25/)』をシリーズ刊行中。編集者としては『後藤雅洋著/一生モノのジャズ・ヴォーカル名盤500』(小学館新書)、『小川隆夫著/マイルス・デイヴィス大事典』(シンコーミュージック・エンタテイメント)、『後藤雅洋監修/ゼロから分かる!ジャズ入門』(世界文化社)などを手がける。また、鎌倉エフエムのジャズ番組「世界はジャズを求めてる」で、月1回パーソナリティを務めている。

 

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