文/池上信次

ジャズのバンドはロック・バンドのように名前を付けることは少なく、多くが「リーダー+編成」をバンド名としています。21世紀になってからは増えている印象はありますが(スナーキー・パピー、ゴーゴー・ペンギン、R+R=NOW、エズラ・コレクティヴ、ディナー・パーティなど)、モダン・ジャズの時代には数えるほどしかありませんでした。理由としてはジャズの演奏は「個人が基本」ということだからでしょう。バンドとはリーダーの音楽を演るものである、と。しかし、だからこそバンドに名前を付けることは、存在感の大きなアピールになっていました。1950年代では、MJQことモダン・ジャズ・カルテットやフォー・フレッシュメン、ザ・スリー・サウンズ、ジャズ・ラブ・クインテット(ジジ・グライスほか)、ザ・プロフェッツ(ケニー・ドーハムほか)などが知られますが、なんといってもザ・ジャズ・メッセンジャーズがもっとも有名でしょう。

このグループ名のアタマには「アート・ブレイキー&」が付くのでは? と思った方、それは半分正解。それは活動の途中からで、当初はたんに「ザ・ジャズ・メッセンジャーズ」でした。バンドとしてのサウンドが出来上がったのち、アート・ブレイキーは2代目リーダーとしてその名とサウンドを引き継いだのでした。

1940年代後半、ブレイキーはビッグバンドを率いて活動していました。その名前は、セヴンティーン・メッセンジャーズ(17人編成だから)。また47年末に録音されたブレイキーのオクテットのレコード(SP/Blue Note)は、アート・ブレイキーズ・メッセンジャーズという名義でした。ザ・ジャズ・メッセンジャーズの名前のネタ元はこれらにあるのですが、のちのハード・バップ以前のビバップ時代のサウンドです。そして、50年代の半ばにブレイキーはホレス・シルヴァー・クインテットに参加します。バンドは54年11月と55年2月に『ホレス・シルヴァー・クインテットVol.3』と『Vol.4』(10インチLP/Blue Note)を録音しましたが、そこで演奏していたのがいわゆるハード・バップ(のはしり)でした。


『カフェ・ボヘミアのジャズ・メッセンジャーズ Vol.1』(Blue Note)
演奏:ケニー・ドーハム(トランペット)、ハンク・モブレー(テナー・サックス)、ホレス・シルヴァー(ピアノ)、ダグ・ワトキンス(ベース)、アート・ブレイキー(ドラムス)
録音:1955年11月23日
「ザ・ジャズ・メッセンジャーズ」の最初のアルバム。ライヴのMCはブレイキーが担当していますが、実質のリーダーはホレス・シルヴァー。

そしてそのレコーディング直後にバンドはクラブに出演することになったのですが、その際に初めて「ザ・ジャズ・メッセンジャーズ」を名乗ることになりました。そのサウンドはたちまち評判を呼び、同年11月、グループはカフェ・ボヘミアでライヴ・レコーディングを行ないました。それが翌56年4月に『カフェ・ボヘミアのジャズ・メッセンジャーズVol.1, Vol.2』(Blue Note)として発売され、ザ・ジャズ・メッセンジャーズの名前とそのサウンドは広く知られるようになりました。というわけで、ザ・ジャズ・メッセンジャーズは、じつはホレス・シルヴァー・クインテットそのものなのでした。同年にはトランペッターがケニー・ドーハムからドナルド・バードに変わりましたが、強固なバンド・サウンドは変わらず。4月と5月にはスタジオ・レコーディングも行ない、アルバムは『ザ・ジャズ・メッセンジャーズ』(Columbia)のタイトルでリリースされました。

と、勢いに乗っていたように見えたザ・ジャズ・メッセンジャーズですが、56年6月にグループは分裂します。解散ではなく分裂。分かれ方は、ブレイキーとそれ以外。シルヴァーはメンバーを引き連れてホレス・シルヴァー・クインテットとして活動を始め、ブレイキーにはグループ名だけが残されました。シルヴァーは、文字通り名より実をとったのでした。もともとこの「看板」はブレイキーが使っていたものなので、これ以降ブレイキーは自身のグループを「アート・ブレイキー&」ザ・ジャズ・メッセンジャーズとして活動していきます。


『ホレス・シルヴァー&ザ・ジャズ・メッセンジャーズ』(Blue Note)
演奏:ケニー・ドーハム(トランペット)、ハンク・モブレー(テナー・サックス)、ホレス・シルヴァー(ピアノ)、ダグ・ワトキンス(ベース)、アート・ブレイキー(ドラムス)
録音:1954年11月13日、1955年2月6日
10インチLP『ホレス・シルヴァー・クインテットVol.3』と『Vol.4』を合わせた12インチLP再発盤。ザ・ジャズ・メッセンジャーズ分裂後の56年10月に発売。音楽的には「原初のザ・ジャズ・メッセンジャーズ」ですが、この時期にこのタイトルでリリースというのは、ブルーノートもなかなか商売上手というところ。

さて、長い前置きになりましたが、ここからが本題。その後のシルヴァーとブレイキーの動きはどうかといえば、ふたりともハード・バップ〜ファンキー・ジャズの中心人物として大活躍するわけですが、どちらが有名になったか? ……多くの人はアート・ブレイキー&ザ・ジャズ・メッセンジャーズと答えるのではないでしょうか。「ザ・ジャズ・メッセンジャーズ」という名前は、まさにジャズのアイコンのようなもの。もちろん音楽があってのことですが、音楽を聴かなくても名前を見聞きしただけで「ジャズ」が感じられるわけで、そのインパクトは絶大です。名は体を表す。もし、「アート・ブレイキー・クインテット」だったら、ジャズの歴史はちょっと違うものになったかも。

文/池上信次
フリーランス編集者・ライター。専門はジャズ。ライターとしては、電子書籍『サブスクで学ぶジャズ史』をシリーズ刊行中。(小学館スクウェア/https://shogakukan-square.jp/studio/jazz)。編集者としては『後藤雅洋著/一生モノのジャズ・ヴォーカル名盤500』(小学館新書)、『小川隆夫著/マイルス・デイヴィス大事典』(シンコーミュージック・エンタテイメント)、『後藤雅洋監修/ゼロから分かる!ジャズ入門』(世界文化社)などを手がける。また、鎌倉エフエムのジャズ番組「世界はジャズを求めてる」で、月1回パーソナリティを務めている。

 


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