会社を退職した後、失業給付を受給しながら次の就職を探す人は多いと思います。失業給付の基本手当をもらうためには、退職後にハローワークで求職の申し込みをして失業の認定を受けなければなりません。失業が認定された後は、基本手当を受給しながら仕事を探すことができます。

そんなとき、もしも病気やけがで求職活動ができなくなったらどうしたらいいのでしょうか?

雇用保険ではそういう人のために、傷病手当という給付や受給期間の延長という制度があります。今回は、雇用保険の傷病手当を中心に、人事・労務コンサルタントとして「働く人を支援する社労士」の小田啓子が解説していきます。

目次
雇用保険の傷病手当はどんな場合にもらえる?
休職中に傷病手当はもらえる?
雇用保険の傷病手当の受給条件
まとめ

雇用保険の傷病手当はどんな場合にもらえる?

雇用保険の傷病手当は、基本手当を受けられるようになった以後の期間が対象となっている手当です。基本手当を受給するためには、「働く意思・能力があり、求職活動を行なっているのに失業状態であること」「離職の日以前2年間に12か月以上の被保険者期間があること」の2つの条件を満たさなければなりません。

被保険者期間の条件は、会社都合の離職や正当な理由のある離職などの場合は、1年間に6か月以上と短縮されます。求職の申し込みをすると、7日間の待期期間があり、待機満了後に失業が認定されると基本手当の支給開始となります。自己都合の退職の場合は、さらに2か月から3か月の給付制限が設けられています。

この7日間の待期期間と給付制限の間は、基本手当の支給はありませんから、傷病手当の支給対象にはなりません。
では、どんなときに傷病手当が受給できるのでしょうか? 

基本手当の支給開始後、病気やけがで仕事に就くことができなくなったら、その間は基本手当は支給停止になります。仕事に就くことができない期間が14日以内であるときは、そのまま基本手当を受給することは可能です。

ただし、その間に失業認定日があるときは認定日を変更しなければなりません。ハローワークに失業認定日の変更を連絡して、次の認定日までに診断書と失業認定申告書を持参して窓口で手続きします。仕事に就けない期間が継続して15日以上になるときは、傷病手当を申請することができます。

雇用保険の傷病手当は、基本手当に代わる支給

病気やけがのために基本手当の支給が途絶えてしまうことは、失業中の人にとっては生活に困る事態になりかねません。雇用保険の傷病手当は、そのような場合に基本手当に代えて支給される手当です。

なお、傷病手当の支給があったときは、その日数に相当する基本手当の支給があったものとみなされます。そのため、傷病手当を受給すると、基本手当の支給残日数は減っていきます。その点は、認識しておきましょう。

休職中に傷病手当はもらえる?

病気などで会社を休職したときに、「傷病手当を受給している」という話はよく耳にします。この場合の傷病手当とは、健康保険の傷病手当金のことです。雇用保険の傷病手当と健康保険の傷病手当金は、名称も似ているので混同されやすいものですが、内容は全く異なる手当です。

健康保険の傷病手当は、病気やけがなどで労務不能となり、賃金がもらえない、あるいは大幅に減額されたときなどに支給されます。

在職中に傷病手当金の支給を受けていた人は、資格を喪失した日の前日までに引き続き1年以上健康保険の被保険者期間があれば、退職後も継続して手当の支給を受けることが可能です。受給可能期間は、労務不能であると判断されれば、支給開始から最長1年6か月間です。

一方で、雇用保険の傷病手当は、休職中であっても、会社に在職している間は対象になりません。

雇用保険の傷病手当は、離職後にハローワークで求職の申し込みをして、基本手当の支給が開始された以後の傷病に対応する制度なのです。間違いやすいところなので、しっかりと確認しておきましょう。

退職後、健康保険の傷病手当金はどうなる?

ちなみに、退職後に健康保険の傷病手当金の継続給付を受けている場合、失業の認定はどうなるのでしょうか? 仕事に就ける状態でないと失業の認定はされないので、健康保険の傷病手当金と基本手当は同時に受給することはできません。

ただし、傷病で30日以上働けない場合は、受給期間の延長申請をすることができます。長期療養などで健康保険の傷病手当金の継続給付を受けているときは、基本手当の受給期間の延長を申請して、傷病手当金の支給終了後に求職活動を始めることは可能です。

雇用保険の傷病手当の受給条件

雇用保険の傷病手当を受けるための条件は、「傷病のため継続して15日以上仕事に就くことができない状態にあること」が必要です。ただし、仕事に就けない状態が離職前から続いているという場合は対象になりません。あくまで、求職の申し込みをして、基本手当を受けられるようになってからの傷病に対する給付になります。

傷病手当を受給するためには、ハローワークに連絡し、医師に傷病手当支給申請書を記入してもらいます。仕事に就けない状態が解消したら、最初に到来する失業認定日に申請手続きをします。仕事に就けない期間が30日以上になるときは、傷病手当を受け続けることもできますが、別の選択肢もあります。

傷病で30日以上仕事に就くことができないときは、ハローワークに申し出て受給期間を延長することができるのです。

基本手当の受給期間は、支給日数の多い一部の人を除いて、原則1年間。受給期間の延長の手続きをすると、本来の1年間に加えて仕事に就くことのできない期間(最長3年間)を受給期間に加算することができます。

傷病手当を受給すると、基本手当の支給残日数が減ってしまいますから、療養が長期になる人で回復後に本格的に職を探したい人は、受給期間の延長を選ぶことが多くなります。それゆえ、雇用保険の傷病手当は、申請する範囲が狭い手当だと言えます。

まとめ

雇用保険の傷病手当は、健康保険の傷病手当金と混同されやすい手当です。「雇用保険の基本手当受給が始まってから利用できる制度」と覚えておくといいでしょう。

傷病手当は、失業中に病気やけがで求職活動ができなくなったときには、当面の生活の助けになる制度です。ただし、療養期間が長くなる場合は、受給期間の延長と比較したうえで、どちらを選ぶのかよく考えて決めると良いでしょう。

●執筆/小田 啓子(おだ けいこ)

社会保険労務士。
大学卒業後、外食チェーン本部総務部および建設コンサルタント企業の管理部を経て、2022年に「小田社会保険労務士事務所」を開業。現在人事・労務コンサルタントとして企業のサポートをする傍ら、「年金とライフプランの相談」や「ハラスメント研修」などを実施し、「働く人を支援する社労士」として活動中。趣味は、美術鑑賞。

●構成/京都メディアライン・https://kyotomedialine.com

 

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