遺言書とは、「自分の財産や、債務について誰に何を渡すのか」という意思表示をするものです。遺言書に残した意思も、正しく作成していないと無効になってしまうことがあります。遺言をスムーズに遂行するには、どのように遺言書を作成し、どのように取り扱えばよいのでしょうか。また、もし残された遺言に納得できないときは、どのような対応ができるでしょうか。

そこで今回は、日本クレアス税理士法人(https://j-creas.com)の税理士・中川義敬が、長年にわたる税理士業務を通じて得た幅広い知識や経験に基づき、遺言書が無効になる事例や納得できない遺言書を無効にできるかについてご説明いたします。

目次
遺言書が無効になる事例とは?
遺言書が無効にならないための対策は?
納得できない遺言書を無効にできる?
まとめ

遺言書が無効になる事例とは?

せっかく遺言書を作成しても、無効になっては意味がありません。ここでは、遺言書が無効になってしまう、以下の例をお話します。

・遺言者自身に遺言能力がない場合
・遺言書が法的要件を満たしていない場合
・遺言書が複数ある場合
遺言書が破棄された場合
・遺言の内容が現状と合致しない場合

遺言者自身に遺言能力がない場合

遺言書の形式にかかわらず、下記の場合には効力が無効となります。

(1)遺言者が15歳未満である場合

遺言者が15歳未満の場合は、親族者等の法定代理人の同意の有無にかかわらず、無効になります。

(2)遺言者が認知症等で意思能力がない場合

遺言書の作成は法律行為です。民法上、法律行為の当事者が、意思表示をした時に意思能力を有しなかった場合は、その法律行為は無効とするとされています。

そこで、意思能力の有無の判断には次のようなものがあります。

・精神上の障がいの有無
・他人による強制や不当な圧力を受けていないか
・遺言内容が複雑でないか

遺言書が法的要件を満たしていない場合

遺言書は自筆証書遺言、公正証書遺言、秘密証書遺言があり、それぞれ厳格に定められた要式があります。なお、動画や音声での遺言は遺言書として認められません。

(1)自筆証書遺言が無効となる場合

・自筆で書くことが義務付けられている箇所を自筆で書いていない
・日付がない
・署名・押印がない(自筆でない財産目録では全ページに署名・押印が必要)
・内容が不明確である
・訂正の仕方が間違っている(修正液・修正テープを使った訂正は無効)
・共同で書かれている

(2)公正証書遺言が無効となる場合

・証人が不適格であった

(3)秘密証書遺言が無効となる場合

・書式に誤りがある
・遺言書に押印された印と封筒の綴じ目に押された印が異なる
・検認手続き前に開封した

(4)遺言書が複数ある場合

遺言書は何通でも作成することができます。そして、遺言書が複数ある場合は、要件を満たしている限り、どれも有効です。しかし、内容が矛盾している場合には、最新の日付のものが有効とされます。

(5)遺言書が破棄された場合

遺言者が意図的に破棄したり、新しい遺言書を作成したりすることによって起こります。

(6)遺言の内容が現状と合致しない場合

遺言者が死亡した際に、存在していない財産が記載されている場合や、遺贈を受ける者が遺言者よりも先に死亡している場合に、部分的に無効となることがあります。

遺言書が無効にならないための対策は?

遺言書が無効になってしまうと、個人の意思とは反した遺産分割になる可能性があります。遺言書が、無効にならないように対策を講じておく必要があるでしょう。

健康なうちに遺言書作成の準備を

まず、なにより健康なうちから対策を行なうことが大切です。事前準備としては、財産や相続人の洗い出し、生前贈与の内容、金額の整理、遺言内容の検討があげられます。財産の洗い出し時には、財産として残す必要があるか、ないのか、検討を行ない、不要であれば売却することや、相続を待たずに贈与することも必要です。

遺言書作成のための事前準備ができたら、遺言書を作成します。遺言書は、何通作成してもかまいません。健康なうちに作成し、家族の状況に変化が生じるようなことがあれば、見直しを行なうことをお勧めします。

遺言能力に不安がある場合

遺言能力に不安な場合は、医師の診察を受け、医師から診断書をもらうなど、遺言能力の有無の判断材料となるものを残しておくと安心です。

また、認知症を発症すれば、ただちに遺言書が無効となるわけではありません。認知症を発症しても、有効な遺言書を作成できると認められる場合があり、民法上では、成年被後見人となった状態でも、医師2人以上の立ち合いを条件として、遺言書を作成することを認めています。

法的要件を満たす遺言書の作成を

遺言書には厳格に定められた要式があり、それぞれの要式のメリット・デメリットを正しく知る必要があります。

自筆証書遺言の作成は費用がかからず、書き直しを手軽に行なうことも可能です。しかし、ご自身で要式を満たす遺言書を作成することが難しく、無効となる恐れがあります。また、紛失や忘れ去られる、書き換えや捨てられるなど、遺言が遂行されないリスクが高いものです。

なお、法務局に遺筆証書遺言を保管する「自筆証書遺言書保険制度」という制度があり、こちらを利用すれば、遺言書の紛失や破棄、改ざんのリスクを軽減することができます。

遺言書が無効となる可能性が低いものとして、公正証書遺言をお勧めします。証人が2名必要で、費用がかかるといったデメリットはあるものの、遺言の遂行面でのメリットが多くあるためです。いずれの場合も、弁護士などの専門家のサポートを受けることで、遺言書が無効となるリスクを低減させることができます。費用や手間の兼ね合いも考慮して、専門家のサポートを受けるのが安全です。

納得できない遺言書を無効にできる?

遺言書が見つかっても、残された相続人側が納得のいく内容であるとは限りません。では、遺言書の内容が納得いかない場合には、遺言書を無効とすることができるのでしょうか?

遺言書が無効になる場合には、形式面の無効と内容面の無効があります。

形式面の無効

形式面での無効は、前述したそれぞれの遺言書の要式に則っていない場合です。署名・押印がないなど、要式に則っていない遺言書は、相続人全員に異論がなければ、その内容によらず遺産分割協議を行なうことができます。しかしながら、一部の相続人が有効と主張した場合には、調停や訴訟といった法的手段をとることになります。

遺言書の要式を満たし、有効であるとなった場合には、遺言のとおりに配分するのが原則です。しかし、遺言の内容と異なる配分を希望する場合には、相続人・受遺者全員の同意を得て、遺産分割協議を行なうことになります。

相続人全員の合意が得られない場合であっても、一定の相続人には遺留分が認められており、遺言書の内容によらず、侵害された遺留分額の請求をすることが可能です。相続財産の配分には、相続人それぞれの感情が大きくかかわり、解決が困難となる場合があります。

法的手段に至る前であっても、弁護士などの専門家に相談することをお勧めします。

まとめ

故人の最後の意思を示した遺言書は、その意思を残すために、さまざまな要件をクリアする必要があります。また、実際に相続が発生した後もその遺言書の有効性の確認、相続人の意思など、様々な問題が生じることもあるでしょう。

故人と相続人、そして相続人同士が生前からコミュニケーションをとり、実際に相続が発生した時には、スムーズに実行できるよう対策を立てる必要があります。その際には、専門家へのご相談も積極的に行なっていくことが大切です。

●取材協力/中川 義敬(なかがわ よしたか)

日本クレアス税理士法人 執行役員 税理士
東証一部上場企業から中小企業・個人に至るまで、税務相談、税務申告対応、組織再編コンサルティング、相続・事業継承コンサルティング、経理アウトソーシング、決算早期化等、幅広い業務経験を有する。個々の状況に合わせた対応により「円滑な事業継承」、「争続にならない相続」のアドバイスをモットーとしており多くのクライアントから高い評価と信頼を得ている。

日本クレアス税理士法人(https://j-creas.com

構成・編集/松田慶子(京都メディアライン ・https://kyotomedialine.com

 

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