取材・文/沢木文
親は「普通に育てたつもりなのに」と考えていても、子どもは「親のせいで不幸になった」ととらえる親子が増えている。本連載では、ロストジェネレーション世代(1970~80年代前半生まれ)のロスジェネの子どもがいる親、もしくは当事者に話を伺い、 “8050問題” へつながる家族の貧困と親子問題の根幹を探っていく。
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「毒親」という言葉をよく見かける。これは、1989年に米国の医療コンサルタントであるスーザン・フォワードが作った言葉だ。著書『毒になる親 一生苦しむ子供』(講談社+α文庫)を読むと、毒親の意味とは「子の人生を支配し、害をもたらす親」であることがわかる。
実里さん(64歳)は、「毒親だけでなく、“毒きょうだい”もいる。私たち夫婦は、毒親と毒きょうだいのせいで、老後破綻のみならず、熟年離婚の危機を迎えています」と語る。実里さんの夫は10歳のときに、母親が当時の家庭教師と駆け落ちして捨てられる。心に傷を負って成長していたが、4年前に生活に窮した母親が訪ねてきて、夫は強引に自分が持っていた投資用マンション(2LDK)に住ませてしまう。借金が残る投資マンションに無料で住ませ、月15万円の生活費ほか諸経費を20~30万円を支払っている。夫は母への思慕から、出費を惜しまないのだ。
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コロナ禍で夫の会社も傾いていた……
夫の母親が来るまで家族4人で幸せで豊かな生活をしていたが、一気に荒むようになった。まず、実里さんのグチを聞き続けた長女(34歳)が、「あのババアは何なの? 働きもしないで遊び惚けて、あんな奴を野放しにするパパには失望した」と夫に直談判。夫は「俺がお前の学費もなにもかも出したんだ。文句を言うなら返せ!」と怒鳴り、長女は家を出て行った。
「要領がいい次女は、ばあさん(義母)のところに行き、その生活の様子を見て、夫に報告する役割をするようになった。それに気をよくした夫に、次女は“パパ、私はこれが欲しい”と、20万円のバッグやコートをねだって買ってもらっている。ばあさんのところに生活費を持って行く役割も買って出て、“おばあちゃ~ん”と持って行っては、15万円のうちから、1万円のお小遣いをもらい、ばあさんが買った山のような通販の段ボールから金目のものを抜き出して、フリマアプリで売っている」
実里さんは、長女を厳しく育てたが、次女を甘やかした。そのツケが来たんだと後悔しているという。
「1年前、次女から、“ばあさんのところに行ったら、知らないおばさんがいた”と報告がありました。夫を通じて聞くと、その女性は夫の義理の妹で、現在50歳。駆け落ちした大学生との間にできた娘を、私たちのマンションに呼び込んでいたんです」
実里さんは言わないが、「老母なら、どれだけ長くとも、10年程度の面倒を見れば、後は元の生活に戻る」と思っていたのだろう。しかし、そこに義理の妹も加わった。夫の生活上、彼女たちの面倒を見る未来が待っているのではないかと推測している。
「そうなんです。夫は他人に対してはけっこう厳しいくせに、身内には甘い。あれだけ母親にメロメロなのだから、義理の妹もかわいがるに決まっている。夫の会社は飲食関連との仕事も多く、コロナでかなり業績不振になっていたんです。それでも義母に援助を続けていくことに、情けなくて」
【私たちよりも、自分を捨てた母親を愛している……次のページに続きます】