医療の発達などにより、日本人の平均寿命は年々のびています。世界保健機関が2015年5月に発表した「2015年版世界保険統計」によると、2013年の日本人の平気寿命は女性が86.61歳で世界1位、男性も80.21歳で世界4位、男女平均は84歳で世界でもっとも寿命の長い国になっています。
では、国内に目を向けてみるとどうでしょうか。現在は長野県、男女ともに1位となっていますが、かつては沖縄が長寿日本一の県として広く知られていました。
都道府県別平均寿命は、5年に一度の国勢調査の年に正確な順位が発表されますが、2000年の調査では沖縄県男性は26位。2010年には、女性も首位の座を明け渡して3位となり、男性は30位に。2015年の最新調査でも、同じ結果が出ています。
ところが、「主な年齢の平均余命」(2015年)になると、65歳の沖縄県男性は2位、75歳では堂々の全国1位です。つまり、沖縄県は平均寿命は他県に比べて短くなってはいますが、年齢の高い世代に限れば長生きしている人が多い、という結果が出ています。
こうした結果は、沖縄の食生活の変化によるものと考えられています。では、本来の沖縄の食文化とはどのようなものなのでしょうか?
■じつは全然違う!琉球料理と沖縄料理、長生きできるのはどっち?
沖縄の伝統料理を守り伝える研究家で、松本料理学院学院長の松本嘉代子さんに話をうかがいました。
「沖縄の伝統的な食文化では塩分の摂取量が少なく、豚肉や豆腐などのタンパク質をしっかり摂りながら、野菜や海藻もよく食べます。さらに、『医食同源』の考え方が根づいており、体によいものを食べようとする意識が強いのです。これが、本来の沖縄の食文化です」
しかし、戦後、アメリカによる統治下以降、食の欧米化が他県よりも進み、高カロリー・高脂肪の料理が普段の食卓に並ぶようになります。そうした食事を子供の頃から摂るようになった結果、肥満・生活習慣病に関連した糖尿病、心臓病、脳卒中などで亡くなる壮年が増えたました。その一方で、昔ながらの食生活を続けている人は、おばぁ、おじぃになっても元気な人が多いのです。
「お年寄りが食べてきた沖縄の伝統的な食事には、知恵が詰まっています。沖縄では、”ごちそうさまでした”を、”くすいないびたん”といいます。『薬になりました』という意味です。食べ物や料理は「ぬち(命)ぐすい」、つまり「命の薬」というわけです」(松本先生)
では、「ぬちぐすい」になる料理とはどんなものなのでしょうか? 松本先生はこう説明します。
「じつは、沖縄料理には大きく2種類ありましてね。ひとつは、沖縄独自の材料や調理法が歴史的に受け継がれてきた『琉球料理』と呼ばれるもの。もうひとつは、タコライスやポークランチョンミート(豚肉の加工品の缶詰)を使ったポーク玉子など、戦後、アメリカの影響を受けて作られるようになった『うちなー(沖縄)料理』です。『ぬちぐすい』となるのは前者、『琉球料理』です。この琉球料理こそが沖縄の伝統料理であり、沖縄の人々の健康長寿を支え続けていた”ぬちぐすい”なのです」
そんな、沖縄に暮らす人々の健康の源である「ぬちぐすい」の中から、今回、松本先生に琉球料理本来の「チャンプルー」の作り方を教えていただきました。家庭で簡単に作れるので、日々の食生活の改善や健康に役立ててみてください。
■豚肉は茹でることで脂質を半分に
「チャンプルー」とは、沖縄の言葉で「ごぢゃまぜ」の意味です。インドネシア語やマレー語の「チャンプール」に由来するともいわれています。松本先生の定義では、チャンプルー料理は「豆腐と季節の野菜の炒めもの」となります。今は肉類が入りますが、かつて豚肉が貴重だった時代は肉を使わず、ラードで炒めることで豚肉の風味を感じていました。
野菜は、春ならキャベツ(タマナー)、夏はゴーヤーに、そのほか、からし菜の漬け物(チキナー)、モヤシ(マーミナ)や島ラッキョウも使います。今回は、全国どこでも手に入るキャベツを使ったタマナーチャンプルーを紹介します。
「食堂や居酒屋で出されるチャンプルーの多くは、ポークランチョンミートが使われますが、琉球料理では茹でた豚三枚肉(バラ肉)を使います。ポークランチョンミートを入れるようになったのは、アメリカ統治下にその缶詰が大量に出回ったからです。ポイントは豚肉は茹でてから使うこと。これで脂質が約51%少なくなります。タンパク質はそのままで脂質は落とす。沖縄の人は豚肉の扱いに長けていますね」(松本先生)
【タマナーチャンプルーの作り方】
<材料/2~3人前>
・キャベツ/300g
・茹でた豚バラ肉/50g
・豆腐/250g
・油/大さじ1
・塩/小さじ1
・わけぎ(青ねぎ)/適量
・醤油/少々
<作り方>
チャンプルーには卵でとじるものもありますが、それはゴーヤーと島ラッキョウを使ったときのみです。苦みやクセを和らげるために卵でとじるのです。油は、ラードを用いるとコクが出て美味しいのですが、カロリーが高くなるのでサラダ油でかまいません。豆腐は、少し塩味がついている沖縄独自の島豆腐を使いますが、一般の木綿豆腐で代用してもかまいません。その際は、水分をよく切ってから使い、味見をして塩分が足りないと感じたときは調味料を加えてください。
「チャンプルーは、豆腐の植物性タンパク質と野菜のビタミン類が、ひと皿で摂れます。肉を入れることで動物性タンパク質も加わります。また、野菜は炒めるとカサが減るので量をたくさん食べられます。チャンプルーはじつに合理的で、栄養的にもすぐれた料理といえます。
ちなみに、最近の都道府県別の野菜摂取量では、沖縄県は下位なんです。それも意外に思われるでしょうが、女性のほうが男性より順位は低いのです。女性はサラダのように生の野菜を食べることが多く、たくさん食べたような気になっていても、実際のところはそれほど摂取できていないことが多いのです」
総務省統計局の(2013年~2015年平均)の家計調査では、都道府県別野菜摂取量の平均値は、沖縄県男性37位、同女性は44位。1位は男女ともに長野県です。
「長野県は、このところずっと長寿日本一ですが、かつては脳卒中の死亡率がトップクラスで、県をあげて沖縄の食文化を学びに来ていました。一方、沖縄はもはや長寿の島とは呼べなくなっています。今すぐ食生活を見直さねばという危機感を強く感じています」
本連載では、琉球伝統の料理や食文化を切り口に、沖縄ならではの“長く良く生きるための知恵”をご紹介していきます。
文/鳥居美砂
ライター・消費生活アドバイザー。『サライ』記者として25年以上、取材にあたる。12年余りにわたって東京〜沖縄を往来する暮らしを続け、2015年末本拠地を沖縄・那覇に移す。沖縄に関する著書に『沖縄時間 美ら島暮らしは、でーじ上等』(PHP研究所)がある。