中国で航海安全の守護神とされるのが、媽祖(まそ)です。中国の影響を色濃く受けた沖縄にも、かつて、その女神・媽祖を祀る宮がありました。宮の名前は、媽祖が中国の皇帝から賜った称号「天妃(てんぴ)」をとって、「天妃宮(てんひぐう)」と名づけられました。日本でいうと、海上交通の神様を祀る神社として知られる四国・香川県の金比羅宮(ことひらぐう)のようなものでしょうか。
琉球王朝時代、中国皇帝への挨拶文と貢物を乗せた進貢船が中国へ向けて出航する際には、天妃宮で航海の安全を祈願していました。天妃宮があったのは那覇市久米。今はその場所に小学校が立ち、「天妃小学校」という名前を残すのみです。
かつて天妃宮の前で売られていたことにその名の由来をもつ、沖縄ならではの甘味があります。それが今回紹介する「天妃前(ティンピヌメー)まんじゅう」です。どうやら戦前は、天妃宮のちかくで売られていた饅頭を総称して、そう呼んだようです。
■餡の香ばしさと黒砂糖の甘味
天妃前まんじゅうは黒砂糖の甘味と風味がよく、餡を包む薄い皮のむっちりした食感も楽しめる饅頭で、月桃の甘く、さわやかな香りとともに美味しくいただけます。
この天妃前まんじゅうの作り方を沖縄の松本料理学院学院長・松本嘉代子さんに教えていただきました。
「昔と変わらない味の天妃前まんじゅうを売る店は1軒(『ペーチン屋』)だけになりましたが、口伝えでそのレシピは伝わっています。このお饅頭は、餡に大麦を煎ってから粉にした『はったい粉』(麦こがし)を使います。はったい粉は主に西日本での呼び名で、関東方面では『麦こがし』と呼ばれます。
昔は、はったい粉に砂糖と水を入れてよく練ったものだけでも、“おめざ”やおやつになりました。はったい粉の質の良し悪しで、香りと味に大きな違いが出ますので、信頼できる店で購入してください。素朴でやさしい味わいが楽しめます」(松本先生)
はったい粉は、大きなスーパーマーケットやお菓子の材料などを扱う専門店で手に入ります。この饅頭作りで一番のポイントは、餡を薄皮で包むところです。
「皮は、均一に薄く包めなくても大丈夫ですよ。餡が透けて見えるところがあっても、それが薄皮饅頭の特徴ですから気にすることはありません。ただ、蒸すときに底になる面は、皮で餡をしっかり覆うようにしてください。そうしないと、蒸し上がって取り出すときに、餡と皮とが一緒に剥(は)がれてしまいますから」(松本先生)
柔らかい生地を扱うのは難しいですが、松本先生のこの注意点を頭に入れておけば、イメージができて作りやすいでしょう。
<材料/8〜10個分>
■皮の材料
・薄力粉/50g
・強力粉/大さじ1
・水/大さじ4
■餡の材料
・はったい粉(麦こがし)/1カップ
・グラニュー糖/50g
・黒砂糖/30g
・水/1と1/2カップ
・月桃の葉/4枚
<作り方>