文/鳥居美砂

旧暦の5月4日は「ユッカヌフィー」と呼ばれ、各地の漁港では豊漁と航海安全を祈願する海の祭「ハーリー」が行われます。地区などを代表する漕ぎ手が小舟に乗り込み、速さを競うのです。

『那覇ハーリー』は観光客にも楽しんでもらうために毎年5月のゴールデンウィークに行われますが、ほかの多くの地域では今も旧暦を守り、今年は5月29日に開催されます。中でも、糸満は沖縄を代表する漁師町とあって、ハーリーが最も熱い地域です。海人(ウミンチュ)の誇りをかけて競います。

糸満では「ハーリー」ではなく、古い呼び名といわれる「ハーレー」を名乗ります。『糸満ハーレー』で使うのは、漁に使っていた小さな舟の「サバニ」です。

漕ぎ手が力を合わせて、速さを競います。

ハーリーの当日は、各家庭ではクレープのような焼き菓子、ポーポーとチンビンを作ります。沖縄の行事料理ならこの人ということで、松本料理学院学院長の松本嘉代子さんを訪ねました。

「かつてこの日は、年に一度の玩具市が開かれました。ハーリー会場近くにはおもちゃを売る屋台が並び、子どもたちは好きなおもちゃを買ってもらえたのです。さらに、お菓子も食べられるとあって、子どもたちには最良の日でした。

ポーポーとチンビンはそれぞれの名前からわかるように、どちらも中国菓子の影響を受けたものです。しかし、ポーポーの中には油味噌を入れ、チンビンには黒砂糖を用いて、沖縄の食文化をうまく調和させています」(松本先生)

手前の白い焼き菓子が「ポーポー」。「チンビン」は、生地に黒砂糖が入っているのでこげ茶色。

油味噌は沖縄では「アンダンスー」といわれ、ご飯のお供的な存在です。豚の三枚肉(バラ肉)に、味噌と砂糖を加えて炒めて作ります。常備菜で、おにぎりの具の定番です。沖縄土産としても売られています。

松本先生のレシピでは、ポーポーに用いる油味噌は三枚肉よりさっぱりした肩ロースを使っています。最後に加えた生姜の風味が効いて、子どもだけでなく、大人も楽しめる味わいです。
それでは、作り方を紹介しましょう。

【ポーポーの材料(10枚程度)】
<油味噌>
豚肉(肩ロース)   50 g
サラダ油       適量
白味噌(甘口)    80g
砂糖(グラニュー糖) 大さじ3〜4
生姜(みじん切り)  小さじ1

<皮>
小麦粉        1.5カップ
ベーキングパウダー  小さじ1
水          1.5カップ弱
サラダ油       小さじ2

【ポーポーの作り方】
<油味噌>
(1)豚肉は茹でて細かく切る。


(2)フライパンに油を熱して(1)を炒め、白味噌と砂糖を加えてツヤが出るまで炒め、生姜を加える。

<皮>
(1)小麦粉とベーキングパウダーは一緒にふるっておく。


(2)ボウルに(1)を入れ、水を加えて泡立て器で混ぜ、ゆるやかなたねを作る。


(3)(2)をあみ杓子などで漉して、サラダ油を加える。


(4)よくなれたフライパンに油を少なめに敷き(分量外)、(3)を薄めに流し広げ、鍋肌から離れてきたら裏返して焼く。

<仕上げ>

(1)皮の1/3のところに油味噌を棒状に置く。


(2)手前からクルクル巻いて仕上げる。

「(2)で水を入れる時はまず250cc加えて様子を見て、最大で300ccとなります。(3)で生地にサラダ油を入れるのは、フライパンに生地がくっつきにくくなって、かえって油っぽさがなくなるからです」(松本先生)

次は、チンビンの作り方です。

【チンビンの材料(10枚程度)】
小麦粉        250g
ベーキングパウダー  小さじ2
黒砂糖(削ったもの) 150g
水          2カップ
サラダ油       小さじ1

【チンビンの作り方】
(1)黒砂糖は分量の水で煮溶かし、アクをすくい取り、布巾で漉して冷ましておく。出来上がりは2カップ。


(2)小麦粉とベーキングパウダーをふるいにかけてボウルに入れ、(1)の黒砂糖液を少しずつ加えて、むらのないように混ぜる。


(3)(2)を漉してサラダ油を加える。


(4)熱したフライパンにやや多めの油を塗って(分量外)(3)を流し入れ、表面にあばたのようにブツブツを穴があいてきたら裏返して焼く。


(5)濡れ布巾の上に取り出し、手前からクルクル巻く。

「黒砂糖のアクが強い場合は、卵白を入れてアクを付着して取り除きますが、今のものはそこまでしなくても大丈夫だと思います。(2)で黒砂糖液を加える時は、いきなり全量入れないでください。様子を見ながら加えて、ホットケーキと同じ程度の硬めの生地にします。

黒砂糖が入ると焦げやすいので、焼く時は火加減に注意。中火よりやや弱くしてください。フライパンは、テフロン加工したもののほうが扱いやすいでしょうね」(松本先生)

主な材料は、小麦粉と黒砂糖です。最小限の材料で、簡単に作れる素朴なお菓子ですが、ミネラルたっぷりの黒砂糖を使っているので、単一的な甘さとは違います。そこには、沖縄独特の風味があります。

リサイズ松本先生Bパターン

松本嘉代子(まつもと・かよこ)  松本料理学院学院長。沖縄の食文化、琉球料理の保存・普及・継承に向けての県の検討会委員を務める。新聞、テレビ、講演会などでも活躍。『沖縄の行事料理』『おきなわの味』など著書多数。 松本料理学院のサイトはこちら

文/鳥居美砂
ライター・消費生活アドバイザー。『サライ』記者として25年以上、取材にあたる。12年余りにわたって東京〜沖縄を往来する暮らしを続け、2015年末本拠地を沖縄・那覇に移す。沖縄に関する著書に『沖縄時間 美ら島暮らしは、でーじ上等』(PHP研究所)がある。

 

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