文/鈴木拓也
体内で生成され、ウイルスや細菌を撃退する頼もしい「活性酸素」。他方で正常な細胞膜を酸化させ、老人性のシミ・シワやアルツハイマー病の遠因となるだけでなく、DNAを損傷させてがんを誘発するリスクがあるなど、厄介な一面もある。
そのため、過剰な活性酸素を減らすことが健康長寿の秘訣と認識され、「活性酸素を無害化する」との触れ込みで、水素水が一時ブームになった。消費者庁から効果に疑問ありと注意喚起されブームは去ったが、それよりもっと身近で、様々な研究で実効性が確認されているのが野菜だ。
そんな中、がん予防には「野菜スープ」が一番と『最強の野菜スープ』(マキノ出版)を上梓したのが、熊本大学の前田浩名誉教授だ。
前田名誉教授の本業は、副作用のない抗がん剤の研究。この研究でノーベル賞候補にも挙がったが、がんそのものを予防する研究も行っている。そして、長年の取り組みから、「がん予防の食事には野菜スープが一番」という結論に到達したという。
その理由は、野菜に含まれるファイトケミカル。これは、植物が紫外線や害虫から身を護るために作り出す化学物質の総称で、カテキン、リコピン、カロテノイドなどよく聞く名前もフィトケミカルである。
前田名誉教授が、ファイトケミカルに注目したのは抗酸化作用。本書では、以下のように説明されている。
ファイトケミカルの特長は、活性酸素を消去する強力な抗酸化作用があることです。植物はファイトケミカルを内蔵しているおかげで、夏の太陽光の強い紫外線を浴びても活性酸素を消去でき、がんにかからないというわけです。
(本書36pより引用)
実は人間にも、活性酸素を消去する物質を生成する機能が備わっているが、加齢とともにその機能は低下してゆく。それを補うのが、野菜のファイトケミカルというわけだ。
ただし、「生の野菜をそのまま食べても、ファイトケミカルはわずかしか吸収することができません」と前田名誉教授。その理由は、野菜の細胞を包むセルロースでできた細胞壁を人間は消化できないため。とはいえ、ゆでるだけで細胞壁は簡単に壊れ、中のファイトケミカルを摂取することが可能になる。野菜のゆで汁の活性酸素消去力は、生野菜の実に10~100倍。なので、野菜スープとして摂ることを前田名誉教授は大いにすすめる。
がん予防対策の野菜スープと言っても、食材や調理法に何か特別なものがあるわけでなく、誰でも家庭で作れる。本書では何種かのバリエーションが紹介されているが、基本の作り方は以下のとおり。
(1) タマネギ、ニンジン、キャベツ、カボチャ、セロリ、セロリの葉、トマトを合わせて300gほど用意し、よく洗っておく。
(2) タマネギは一口大、キャベツはざく切りにするなど、各食材を食べやすい大きさに切る(ニンジンは皮をむかない)。
(3) 鍋に野菜を入れ、水を900ml注ぐ。
(4) ふたをして火にかける。沸騰直前に火を弱め約30分煮てできあがり。
前田名誉教授によれば、野菜に含まれるファイトケミカルには、体内の発がん物質の解毒・排泄作用を高める、腸の善玉菌を活性化させ免疫力をつける、抗がん剤の副作用を抑えるなどの効果もあるという。材料は安価で、冷蔵・冷凍保存もできるので、日ごろの食事に適宜加えて、がんを寄せ付けない体質づくりをはかるとよいだろう。
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【今日の健康に良い1冊】
『最強の野菜スープ』
(前田浩著、本体1,300円+税、マキノ出版)
文/鈴木拓也
老舗翻訳会社役員を退任後、フリーライター兼ボードゲーム制作者となる。趣味は散歩で、関西の神社仏閣を巡り歩いたり、南国の海辺をひたすら散策するなど、方々に出没している。