文/鈴木拓也
2017年4月に来日したポール・マッカートニーの公演を見た人は、3時間近くにわたりエネルギッシュに歌い続ける姿から、とても74歳の“高齢者”とは思えなかったにちがいない。見た目も若々しく、ぜい肉もほとんどない。そんなポールの強健ぶりの秘訣は、どうやら食事にあるらしい。
『老いない人は何を食べているか』(平凡社新書)を上梓した、松生クリニックの松生恒夫院長は、書き出しでポップ界の帝王の食事について触れている。それによるとポールは、25年以上にわたり厳格なベジタリアンの食事を続けており、肉や魚は一切口にしないという。
同書では、もう1人の古希を過ぎたスーパースター、ミック・ジャガーの例もひきあいにしているが、彼も専属シェフの作ったヘルシーな食事のみを食べ、間食も外食もせず、酒もたばこもやらない。なおかつ、ジムに通って鍛錬し、ジョギングや水泳なども欠かさないという超健康的な生活であることを明かしている。
もっとも、本書が読者にすすめているのは、こうしたストイックにすぎる食事やトレーニング法ではない。代わりに提案するのが、松生先生が考案した「地中海式和食」というものだ。
「地中海式和食」とは読んで字のごとく、ヘルシーな食事として世界的に注目されている「地中海食」と「和食」のいいとこどりをして、ドッキングさせたもの。具体的には、以下のような食生活だ。
「オリーブオイルを豊富に使い、穀物(パン、パスタ、米、クスクスなど)、魚、野菜、果実を豊富に摂り、肉類、乳製品は少量しか摂らない」
「発酵食品や野菜、魚介類を比較的多く摂る和食、つまり一汁三菜の食事を中心にして、甘酸っぱい味になる場合は、砂糖をオリゴ糖に替えて使用したり、油を使う場合では、エキストラバージン・オリーブオイルを使うようにすればよいのです」(同書より)
さらに松生先生は、この食生活を日常的に続けると、老化を抑えることができるともアドバイスしている。
そもそも松生先生が「地中海式和食」に行きついたきっかけは、食生活の調査にあった。年齢よりもずっと若く見える人たちの食生活を調べたところ、共通する要素が、抗酸化作用があり、腸内環境をよくする野菜や果実を多く摂っていたことがわかったのだ。とくに食物繊維の多い食材は、アンチエイジングの要となる臓器=小腸の健康維持には欠かせず、これに松尾先生が長年研究し大きな効能を認めているオリーブオイルを加えることで、完成度の高いアンチエイジング食になるのだ。
実際、昔から「長寿県」として平均寿命の高い地域は、「地中海式和食」に似た食生活を送っているところが多いという。これはかなりの説得力がある。
ちなみに、日本一の長寿県であった沖縄県の平均寿命がどんどん下がってしまったのは、今の還暦世代あたりの年代が、米国の食文化の洗礼をまっさきに受けたからだという。その後を追うように他県も、ファーストフードに代表される米国の食べ物を受け入れていったから、他人ごとではない。
さいわいなことに「地中海式和食」は、何歳からでも始められるし、無理なく続けられるし、効果も確かだ。さっそく明日の夕食からでも、この考え方を取り入れてみてはいかがだろう。
【今日の健康に良い1冊】
『老いない人は何を食べているか』
(松生恒夫著、本体780円+税、平凡社)
http://www.heibonsha.co.jp/book/b308661.html
文/鈴木拓也
2016年に札幌の翻訳会社役員を退任後、函館へ移住しフリーライター兼翻訳者となる。江戸時代の随筆と現代ミステリ小説をこよなく愛する、健康オタクにして旅好き。