文/中村康宏
朝ご飯、きちんと食べていますか?
「朝はしっかり食べなさい」と母親に言われた経験は、誰にでもあるでしょうし、アメリカにも、「健康でいるには朝食は王様のように、昼食は王子のように、夕食は貧民のように食べよ」ということわざがあります。昔から、一日を元気に過ごすために朝食が重要であることは、経験値としてよく知られてきたのですね。
では、朝食を抜くとカラダにどのような変化が起きるか、ご存じでしょうか? これまでの様々な研究をとおして、朝食を抜く“朝食欠食”がカラダに及ぼすさまざまな影響がわかっています。
今回は、朝食欠食がカラダに及ぼす変化とそのメカニズムについて、解説いたしましょう。そこには、太りにくい体になるためのヒントが隠されていました。
■朝食抜きがカラダに及ぼす変化
まずもって朝食欠食は、肥満やメタボリックシンドローム( 以下、メタボ),耐糖能異常(血糖値が下がりにくくなる糖尿病の一歩手前の状態)に影響すると指摘されています。さらに、動脈硬化を引き起す可能性や、メタボ進行に伴いその他の疾患にも罹患する可能性があると考えられています(※1-3)。
一方で、毎日きちんと朝食を摂取することが、肥満を予防し、糖尿病のリスクを下げることもわかっています(※4)。
健診結果を統計解析した研究によると、30歳代の食習慣が40歳代以降の健診結果に影響を及ぼすことがわかっています。そして習慣的な朝食欠食の影響が、30歳代には血液検査の異常として現れ始め、40〜50 歳代にかけて内臓脂肪が著しく増加することが報告されています(※5)。
■朝食欠食から肥満やメタボが起こるメカニズム
朝食欠食が肥満やメタボにつながることの医学的な根拠は、どこにあるのでしょう。それは【1】欠食者の心身活動の減少、【2】糖新生反応による筋肉たんぱく質の分解と体力低下、【3】代償的な昼夕食の増加と血糖値の急上昇、【4】体内時計の不一致、という4つの要因が関係しています(※4)。
順に説明していきましょう。
【1】欠食者の心身活動の減少
朝食を摂取しないと、食事によって誘発される熱の産生(食事誘発性熱産生)が起こらず、1日の総消費カロリーが減少してしまいます。さらに、午前中のカロリー消費が低レベルで維持されると、昼食後以降のカロリー消費もさらに下降してしまいます。(※8)
【2】糖新生反応による筋肉たんぱく質の分解と体力低下
空腹時に血糖値が下がると、インスリンがそれを感知し「筋肉」が分解され、血糖値を一定に保つことで脳やカラダの活動を維持しようとします。これによる筋肉の減少は体力と基礎代謝の低下を招き、いっそう脂肪が燃焼されにくい体質になってしまうのです。
【3】代償的な昼夕食の増加と血糖値の急上昇
さらに、空腹感の持続は昼夜の食事量の増大を招き、結果的に食べ過ぎで太ることにつながります。もちろん、総カロリーを抑えることができれば減量することは可能ですが、それは脂肪が減ったのではなく、筋肉減少や水分不足による減量であり、肥満やメタボが起こる負のサイクルから脱していないことに注意しなければなりません。
【4】体内時計の不一致
また、朝食は体内時計のリセットにも重要な役割を果たしています。食事は、全身に存在する時計遺伝子のスイッチとして働いており、循環・呼吸・消化・生殖・体温調節など多くの身体機能は、食事をいつ食べたのかを目安にして活動期と休息期を決定しているのです(6)。
特に、朝食の摂取は栄養効率を決める上で非常に重要で、朝食を活動期の開始時刻であると認識し、消化液やホルモンの分泌、胃腸の活動性に大きな影響を与えているのです。
■「セカンドミール効果」を取り入れた理想的な朝食
この朝食による体内時計のリセットには、タンパク質と炭水化物(糖分) の両者が必要であることが明らかにされており、バランスの良い朝食を規則正しく摂取することが望ましいとされています。
とくに、炭水化物の摂り方にはポイントがあります。それは、低GI値の食品を中心にすることです。
ファーストミールで血糖値とインスリン濃度の上昇を抑制すると、次の食事後のこれらの反応も改善することがわかっています(※7)。これを「セカンドミール効果」と呼び、余分な糖分が脂肪に変わることを防ぐことができるのです。
さらに、GI値の低い食事はゆるやかに糖が吸収されるため、腹持ちも良く満腹感が持続し、総食事量を減らすことができます。
* * *
以上、今回は朝食の重要性と、朝食を抜くことがカラダに与える影響を解説しました。
朝食を抜くと、筋肉分解や体力低下、体内時計の不一致が起こり、結果として肥満や動脈硬化の原因となっていることがわかっています。朝食を抜いたダイエットは筋肉減少や水分不足による減量であって、肥満やメタボが起こる負のサイクルから脱していません。
正しい知識を日常生活に取り入れ、効率の良い食習慣を心がけて、健康で太りにくいカラダを手に入れてください。
【参考文献】
※1:Watanabe Y, et al. J Rural Med 2014; 9: 51-8.
※2:Deshmukh-Taskar P, et al. Public Health Nutr 2013; 16: 2073-82.
※3:Jakubowicz D, et al. Diabetes Care 2015; 38: 1820-6.
※4:安部聡子, 他. 人間ドック31: 570-9, 2016
※5:神崎匠世, 他. 日農村医会誌 2012;61:55-66.
※6:岡村, 他. 日消誌. 2005; 102:1259-66
※7:Timlim MT, et al. Nutr Rev. 2007; 65: 268-81.
※8:永井成美, 他. 糖尿病 2005: 48; 761-70
文/中村康宏
関西医科大学卒業。虎の門病院で勤務後New York University、St. John’s Universityへ留学。同公衆衛生修士課程(MPH:予防医学専攻)にて修学。同時にNORC New Yorkにて家庭医療、St. John’s Universityにて予防医学研究に従事。