文/鈴木拓也

家事評論家・エッセイストとして長年にわたり活躍する吉沢久子さん。1918年生まれで、1月には100歳を迎えたが、今も健筆をふるう。

そんな吉沢さんの元気と長寿の秘密を1冊にまとめたのが、『100歳まで生きる手抜き論 ようやくわかった長寿のコツ』(幻冬舎)だ。書名のとおり、長生きのコツとは適度な「手抜き」であることが、くわしく説かれていて興味深い。

例えば食事。世間では、糖質制限やらグルテンフリーやら、食と健康に関する様々な論説がかまびすしい。しかし、吉沢さんの食養法には、何かを制限したり、逆にこれだけは毎日食べるといったものはない。方針は、きわめてシンプル。「おいしい食事が健康の秘訣」である。

食事には、「こうでなくては」というルールはありません。楽しめるものは、何でも楽しみます。たとえば、自宅の庭で育った野菜を収穫し、採れたてを調理して食べるのは楽しみの一つ。全国各地から特産品などをとり寄せるのも大好きですし、知人が、「きっとこれはお好きだと思って」などと言って贈ってくれるものには、いつも心が躍ります。
(本書p.107~108より引用)

時には外食をして、寿司やてんぷらに舌鼓をうち、デパ地下の総菜も和洋中問わず好きなものを食べるそう。そして食べる量も「腹八分」が良いことは理解しつつ、それにはとらわれないという。自分で料理を作る時も、何食か作り置きしたり、道具を活用して調理の手間を省くなど、ほどよい加減の手抜きがよいとする。

運動習慣も、歩数目標を決めてウォーキングしたりでなく、「仕事や家の用事のついでに、体を動かしておこう」というあんばい。

牛乳を火にかけて温めるときなど、ちょっとした隙間時間でシンクにつかまってスクワットをしたり、椅子に座っているときにストレッチのまねごとをしてみたり、特別に時間をとらない「手抜き」運動でも、案外、効果はあるものです。
(本書p.46より引用)

吉沢さんは、食事や運動のようにダイレクトに健康にかかわることばかりでなく、人づきあいや掃除など、生活における万事でほどよく手を抜くことが、長寿の秘訣であると諭す。

ただし、「手抜きとだらしなさは別物」であるとも。洋服は手入れが楽な物を選んで着るのはいいが、清潔感なくだらしなく着るようなライフスタイルにはダメだしする。そして、自分は「まだまだ大丈夫だ」などと過信すると、ケガなど思わぬトラブルにつながるリスクについても、「自戒を込めて」記している。

日本の100歳人口はいまや6万人を超えたが、ストイックに健康に留意し続けて100歳を迎えたという話はあまり聞かない。やはり、吉沢さんの言うように「手抜き」を生活に取り入れることが、最良の健康法なのだろう。

【今日の健康に良い1冊】
100歳まで生きる手抜き論 ようやくわかった長寿のコツ
(吉沢久子著、本体780円+税、幻冬舎)

文/鈴木拓也
2016年に札幌の翻訳会社役員を退任後、函館へ移住しフリーライター兼翻訳者となる。江戸時代の随筆と現代ミステリ小説をこよなく愛する、健康オタクにして旅好き。

 

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