筆者は自分自身が重症の腰痛・坐骨神経痛患者でした。
手術をすすめられるほどでしたが、誰でもできる体操などの方法を用いて、自分自身で完全に克服することができました。
今回はその筆者の体験にもとづいて、腰痛・坐骨神経痛を克服する方法についてご紹介させていただきます。
腰痛や坐骨神経痛の体験記や、どのように克服したかという記事は、ネットで検索するとたくさん出てきます。
しかし私のように、自分の腰痛・坐骨神経痛を治すために鍼灸師の国家資格を取得し、さらにさまざまなエビデンスを学んで体操やセルフケアで克服したという経験は、なかなか希少なのではないかと思います。
腰痛や坐骨神経痛でお悩みの方の参考や励みになればと、この連載の場をお借りして、そのあらましをご紹介させていただければと思います。
激痛で動けない! 18歳で腰椎椎間板ヘルニアと診断
私がはじめて腰や脚の痛みを覚えたのは18歳の秋。激痛で動けなくなり即入院。X線やCTなどの検査の結果、腰椎椎間板ヘルニアという診断でした。
入院中は痛みでほぼベッドから動けず、薬やブロック注射も効果がありません。X線下でおこなう硬膜外神経ブロックまでしましたが、全く効果がありませんでした。
残る方法としては手術しかないとすすめられたものの、それは絶対に嫌だったので無理を言って2週間ほどで退院し、自宅療養をすることに。
高校を卒業するという時期でしたが、卒業までは全く良くならず、出席日数ギリギリでなんとか卒業できたような状態。大学受験どころではありませんでした。
春ごろから自分なりにトレーニングとして自転車に乗ったり、腹筋や背筋をおこなったりしはじめたところ、少しずつ良くなり、3か月ほどでアルバイトをはじめられるほどに改善しました!
その後一念発起して鍼灸の専門学校に進学したのですが、在学中に痛みが再発……。また2~3か月通学できない事態になったりもしながら、なんとか卒業。
鍼灸師の国家資格は取得できましたが、腰痛・坐骨神経痛は常についてまわり、いつも痛い……。さらに年に2~3回は動けなくなるようなコンディションでした。
腰をほぐすと良くなることに気づく
その当時、20~30年ほど前ですが、もちろんネットはありませんし、腰痛や坐骨神経痛を治すための情報もほとんどないような状況でした。
しかし自分なりにいろいろ工夫するなかで、腰や背中、お尻などの筋肉をほぐすと痛みがかなり軽減することに気づきました。
その当時は、東急ハンズで購入した木球、文字どおりブナ材でできた直径5~6cmの木の球ですが、これを背中や腰やお尻に当ててグリグリとほぐしていたのです。
そうすると、とくに痛気持ちいいポイントがところどころにあり、そこを良くほぐすととても効くことがわかりました。
それは整体やマッサージや鍼などの治療を受けるより、自分にとってははるかに効果があったのです。
なぜ効果があるのかを調べていたところ、専門書で次のような図を発見しました。
『え? これ自分の痛みとまったく一緒じゃん!』
これがトリガーポイント=筋肉の発痛点との出合いでした。
トリガーポイントというのは、筋肉が強く緊張して痛みを生じる筋肉内のしこり状のポイントのことです。筋肉の緊張による痛みなので、ほぐすと痛みがやわらぐのです。
日々トリガーポイントをほぐすようにすることで、日常的な痛みはかなり軽減されました。しかし、それだけで完全に痛みから解放されたわけではありません。
トリガーポイントについて、くわしくはこちらの記事もお読みください。
腰痛や坐骨神経痛の原因にもなる「トリガーポイント」とは?【川口陽海の腰痛改善教室 第103回】(https://serai.jp/health/1104848)
背骨が原因ではなかった!
さらにこの頃、衝撃的な本と出合います。
著者のジョン・E.サーノ氏は、ニューヨーク医科大学臨床リハビリテーション医学科教授、ニューヨーク大学医療センター付属ハワード・A・ラスク・リハビリテーション研究所所属医師などの経歴を持ち、腰痛などの臨床に当たっていました。
この本が米国で最初に出版されたのは、日本で出版された1999年のさらにだいぶ前だったと記憶していますが、その当時に腰痛の原因は背骨ではないという説を提唱し、実際に治療効果をあげて一大センセーションをおこしたそうです。
この本により私は腰痛の原因は背骨ではない可能性があるということを知り、大変に衝撃を受けました。
『今までの治療はいったいなんだったんだ!』
『背骨が原因じゃないのにそこを治療してたから効果が出なかったんだ! そりゃ治るわけないよ!』
そんな怒りともあきらめともつかない気持ちになったことを覚えています。
しかし同時に、
『背骨は原因ではないのなら手術の必要はないし、他に治療手段はたくさんあるのでは?』
という気づきと安心も覚えました。
私も『ずっとヘルニアや痛みを付き合っていかなければならないのか?』と考えていましたので、それだけでとても心が楽になりました。
腰痛の原因は背骨ではない(可能性がある)ということは今ではよく知られていますが、この本が出版されてから日本でも徐々に認知されていったと思います。
またジョン・E.サーノ氏は痛みの原因として、緊張性筋炎症候群(TMS)という説を提唱していることも慧眼です。
緊張性筋炎症候群は学説としては誤りがあると思いますが、先ほどのトリガーポイントに通ずる考え方で、筋肉が原因としている点は本当に鋭いと思います。
そしてこれ以降も、背骨の変形や異常が原因ではないということが医学的なエビデンスとして、さまざまな研究で裏付けられていっています。
この本との出合いが、私の腰痛・坐骨神経痛克服の大きなポイントになったのです。
体幹インナーマッスルトレーニングで劇的に改善
腰痛の原因は背骨ではないとわかり、心も楽になって症状としては軽くなっていったものの、まだまだ痛みは残っていました。
年齢的には36歳くらいでしたが、18歳で発症していますから、その時点で人生の半分くらいは腰痛・坐骨神経痛と闘っていたわけです。
そんな時に、その当時はスポーツトレーナーとしても活動していたのですが、知り合いのトレーナーから新しいトレーニング器具の講習会に誘われ、参加したところで出会ったのが体幹インナーマッスルトレーニングでした。
今から16~17年前は、ちょうどインナーマッスルという言葉が出はじめた頃で、言葉だけは知っていたけれどどういうものかはよくわかっていませんでした。
しかし、そのトレーニングの効果は劇的でした。
その講習会で教わったトレーニングをおこなったところ、わずか1週間ほどで腰や脚の痛みが激減したのです!
数字的に言うと、それまでの日常的な痛みが10段階で7~8くらいだったところ、2以下になったくらいです。
その頃は、例えばスーパーでレジ待ちをしますよね? ほんの30~60秒くらいだと思いますが、それくらい立ち止まっているだけでも腰が重苦しくなってくるようなことがよくありました。
それが全くない! お腹に力を入れて立っていると全く痛くないんです!
この感動は本当に腰が痛い人じゃないとわからないかもしれませんが、本当に涙が出るくらい嬉しく、感動的でした。
『自分はここ(インナーマッスル)が弱かったからこんなに腰が痛かったんだ!』と理解できたこと、対処法がわかったことが本当に嬉しかったのです。
ようするに、ごく単純に『腰を支える力が弱かったから腰(の筋肉)に負担がかかって痛かった』ということだったのです。
弱い筋肉はいくらほぐしても強くなりません。トレーニングして回復強化することが絶対に必要なのです。
そしてそのインナーマッスルトレーニングを、仕事として治療にも取り入れたところ、腰痛の患者さん達にも大いに効果がありました。
本連載でもご紹介しているインナーマッスルトレーニングは、そのような経験やさまざまなエビデンスにもとづいているものです。
自宅で出来る!腰痛トレーニング(https://re-studio.jp/wp/dvd/)より
体幹インナーマッスルトレーニングについては、以下の記事もご参考になさってください。
腰痛改善には必須! 体幹インナーマッスルトレーニングとは?【川口陽海の腰痛改善教室 第104回】(https://serai.jp/health/1106038)
痛みの真の原因は脳
さらに私自身の痛み理解と克服に大きな影響があったのは、『腰痛など慢性痛の真の原因は脳の鎮痛機能の低下』にあるというエビデンスです。
これはここ5~6年くらいのごく最近のトピックですが、
『脳にはもともと痛みをやわらげる仕組み(働き・機能)があり、慢性痛の人の脳の中ではその機能が低下している』
『いわば、脳が痛みに過敏になってしまっている』
『本当に生じている痛みは10とか20だとしても、鎮痛機能が低下しているとそれを脳が100とか200として感知してしまうことがある』
『ストレスが腰痛などの原因になるのは、これが原因』
というようなことがわかってきたのです。
これはMRIなどの画像検査の精度があがってきたことや、AIにより大量の画像データを比較調査することができるようになったことによる成果です。
慢性痛の人の全身のMRI画像を健常者と比較調査した結果、脳の一部に違い(異常)が生じていることがわかったのです。
そして同時に、その脳の鎮痛機能の低下を改善する方法もわかりました。
『痛みを必要以上に恐れないこと』
『活動量を減らさないこと。寝込むと余計悪くなる』
『積極的に運動すること。運動することで脳の血流が良くなり、鎮痛機能の回復につながる』
『痛みに集中しないようにする。できるだけ楽しいと感じることをすると良い』
『呼吸法や瞑想なども脳の鎮痛機能回復に効果がある』
などなど、心理療法的なアプローチや運動療法的なアプローチが効果があることがわかってきたのです。
これって薬か手術しか選択肢がなかった時代からすると、本当にすごいことだと思いませんか?
自分で改善する方法がたくさんあるということです。
いまでは病院でもこのようなエビデンスに基づいて、薬も利用して痛みを抑えながら、積極的な運動をしたり痛みに対する考え方を変えたりするなどの方法を指導されているところが増えてきています。
痛みと脳の関係については、ぜひ以下の記事もお読みください。
ストレスからおこる腰痛~腰痛とストレスと脳の関係~【川口陽海の腰痛改善教室 第7回・前編】(https://serai.jp/health/343117)
脳の鎮痛機能を回復させる方法~ストレスからおこる腰痛~【川口陽海の腰痛改善教室 第7回・後編】(https://serai.jp/health/343516)
私が腰痛・坐骨神経痛を自分で克服した方法まとめ
1)トリガーポイント=筋肉の発痛点をほぐす
2)痛みの原因は背骨ではないと理解する
3)体幹インナーマッスルトレーニングで腰を支える力を取り戻す
4)痛みの真の原因は脳の鎮痛機能の低下、痛みを恐れず積極的に活動(運動)する
特別なことはまったくありません。誰でもできることですし、できることから少しずつおこなっていけばいいだけです。
あなたにも絶対できますし、必ず良くなります。ぜひ希望と意欲をもって取り組んでください。
* * *
さて2018年から6年以上150回にもなった本連載ですが、今回で終了させていただくことになりました。
長くご愛読いただきまして本当にありがとうございました。
これからも皆様のご健康とご多幸をお祈りいたしております。
またどこかでお目にかかれましたら幸甚に存じます。
ありがとうございました。
四谷さくら治療院/腰痛トレーニング研究所
川口陽海
文・指導/川口陽海 厚生労働大臣認定鍼灸師。腰痛トレーニング研究所代表。治療家として20年以上活動、のべ1万人以上を治療。自身が椎間板へルニアと診断され18年以上腰痛坐骨神経痛に苦しんだが、様々な治療、トレーニング、心理療法などを研究し、独自の治療メソッドを確立し完治する。現在新宿区四谷にて腰痛・坐骨神経痛を専門に治療にあたっている。著書に「腰痛を治したけりゃろっ骨をほぐしなさい(発行:アスコム)」がある。
【腰痛トレーニング研究所/さくら治療院】
東京都新宿区四谷2-14-9森田屋ビル301
TEL:03-6457-8616 http://www.re-studio.jp/index.html