認知症とは脳の病気、障害などさまざまな原因で認知機能が低下し、日常生活をする上で支障が出ている状態(およそ6か月以上)のこと。研究が進むとともに、ケアの方法はもちろん家族の心構えやサポート体制など、認知症の常識は今、大きく変わりつつあります。実際、30年前に比べるとその進行スピードは3分の1にまで緩やかになっているそうです。

「女性セブン」で4年間長期連載していた人気記事をまとめた『151人の名医・介護プロが教える認知症大全』は、「もしかして?」と思ったときから最期の「看取り」まですべてを網羅している一冊です。東京慈恵会医科大学教授で、認知症専門医・日本認知症ケア学会理事長の繁田雅弘さんは「“何もわからなくなって人生終わり”というのは大誤解です」と言います。

今回はメモリーケアクリニック湘南院長で認知症専門医・精神保健指定医の内門大丈さんへの取材をもとにした「若年性認知症」についてと、繁田さんへの取材をもとにした「MCI(軽度認知障害)」についてご紹介します。

5人に1人が認知症になると言われる時代。もはや他人事ではありません。自分らしい人生を生きるための認知症との新たな向き合い方を知ることから、始めてみませんか。

取材・文/斉藤直子

仲間や支援、相談先の確保が重要。65歳未満で発症する若年性認知症

Point
(1)個人差が大きく、症状・進行は高齢の認知症と同じ
(2)仕事、子育て中に抱える苦悩の支援先の模索を

仕事や家事の失敗があっても認知症と気づきにくい

65歳未満で発症するものを若年性認知症といいます。患者数は約4万人(2020年調べ)、認知症全体の中では1%以下と希少。症状、経過、治療やケア方法は高齢の認知症と変わりませんが、高齢者の病気というイメージから気づかれにくく、治療が遅れる傾向も。また若年性は進行が速いともいわれますが、必ずしもすべてではなく個人差が大きいのです。10年近く経過しても認知機能が維持されるケースもあり、早期からの専門的治療や日々の活動、周囲のサポートなどで進行抑制が期待できるので、認知症が気になれば、できるだけ早い専門医への受診をおすすめします。

本人視点で認知症観を変える原動力に

認知症を取り巻く環境改善に尽力しているのもまた若年性認知症の人たち。仲間の声を集約して国に提言し、新オレンジプラン(認知症施策推進総合戦略)で「(認知症) 本人の意思尊重」「本人の視点重視」を明示させた日本認知症本人ワーキンググループ代表理事の藤田和子さん、診断直後の不安を共有して一緒に乗り越える活動「おれんじドア」の礎を築いた丹野智文さんらが先駆者となり、今や多くの認知症当事者が経験やニーズを発信するようになりました。

全国の若年性認知症者数は3.57万人と推計。平均発症年齢は54.4歳。最初に気づいた症状は「もの忘れ」66.6%、「仕事や家事での失敗」38.8%、「怒りっぽくなった」23.2%。発症時点で就業していた人は約6割で、うち約7割が退職したという調査結果も。

仕事、家計、人生のことを相談できる先を探して

家計を支える働き手が認知症のために退職せざるを得ない、介護を担う配偶者が子育て・老親介護のトリプルケアになるなど、若年性認知症は病気以外にもさまざまな問題が内在します。家族の中だけで抱え込まず、就労や生活を支援する制度、サービスにつなげてくれる病院の「ソーシャルワーカー」、「若年性認知症支援コーディネーター」などに相談し、「家族会」や「認知症カフェ」などで情報交換や思いを話せる仲間を持つことがとても重要です。

若年性認知症支援コーディネーターとは

病気の特性と当事者の切実なニーズをよく理解し、就労や居場所作り、助成制度利用など自立支援のための総合的なコーディネートを行う。各都道府県に配置されている。

●若年性認知症コールセンター
若年性認知症支援コーディネーターが対応する各都道府県に設置された相談窓口一覧がHPから検索できる。

●各市区町村の高齢福祉担当課地域包括支援センター
専門医のいる医療機関や近くの家族会や認知症カフェなどを紹介してくれる。

MCI(軽度認知障害)は認知症ではない。生活習慣を見直す機会に

Point
(1)MCIは認知機能が低下しているサイン
(2)認知症対策ではなく生活の見直しを

認知機能低下がすべて認知症とは限らない

もの忘れが気になるなどで認知症が心配になり、検査をしてMCI(軽度認知障害)と診断されることがあります。MCIは「もの忘れはあるが、日常生活に支障がない」「正常と認知症の中間」「年間10〜30%が認知症に移行するが、正常レベルに回復する人もいる」という状態。将来、認知症になるリスクが高まった状態、認知症予備軍と呼ばれることもあるため、認知症の初期段階と思い込みがちですが、認知症ではありません。
MCI診断で注目すべきは、認知機能検査で成績が振るわなかった理由です。認知機能を低下させるのは脳を疲弊させる過度のストレスや体調不良。もちろん認知症の前駆期の場合もありますが、MCIと診断された段階で真っ先にすべきは今の生活をよく見直すこと。ストレスが多く疲れていないか、体の病気を見逃していないかをチェックすることです。

怠惰な状態もキケン。家族は意欲的な生活の後押しを

家に閉じこもって何もしないでいるのも認知機能が落ちる要因になり、もの忘れなどが起こります。MCI診断はそんな状態への警鐘でもあります。認知機能を高めるといわれる脳トレや運動も強いられると大きなストレスになり逆効果。重要なのは本人が主体的に暮らし、脳が活性化するような意欲を持つことです。今のところ認知症の予防はできないので「認知症にならないこと」を目標にせず、家事、仕事、趣味、地域活動でも何でも、本人がイキイキ活動できる生活を、家族は支えてください。
なお認知症に移行する場合は持続的に認知機能が低下しますので、MCI診断以降は定期的な受診で経過を見ることも大切です。

声で認知機能の低下をAIがチェック

NTTコミュニケーションズの「脳の健康チェックフリーダイヤル」(0120・468354)は今日の日付や自分の年齢などを話すと、その音声をもとにAI(人工知能)が脳の健康具合をチェックし、認知機能の低下の可能性を知らせてくれる。認知症だけでなく脳の健康状態の不調にも気づける。(2024年3月末まで無償提供予定)

■脳の健康チェックフリーダイヤル
https://www.ntt.com/business/lp/brainhealth.html

MCI診断でも早期発見のメリット

特発性正常圧水頭症や慢性硬膜下血腫などが原因の認知症は治療で治すことができるので早期発見は重要。また早期から進行を緩やかにする生活習慣を始めればより効果的。本人、家族とも認知症の変化に戸惑う期間が短くてすみ、介護方法や支援の情報で落ち着いて備えることもできる。

* * *

『151人の名医・介護プロが教える認知症大全』
監/繁田雅弘 監/服部万里子 監/鈴木みずえ 文/斉藤直子
小学館 2200円(税込)

 

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