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健康

家族の認知症発症を早期発見できる3つの手がかりとは【予防医療の最前線】

文/中村康宏

2015年の日本人の平均寿命は男性が80.79歳、女性が87.05歳でともに過去最高を更新しました。今後、高齢化率はさらに増加すると予想される中で、「加齢」が最大の危険因子である「認知症」が増加すると推測されています。

認知症やその予備軍の高齢者数は、10年以内に約2人に1人になると見込まれており、認知症が「国民病」と評されるようになっています。

認知症予防の重要性が増す中で、認知症についての正しい知識を獲得し、予防意識を高める必要があります。そこで今回は、認知症に至るまでの過程と早期発見のポイントについて解説します。

■認知症はとても身近と知るべし

認知症の高齢者数は、2012年で全国に約462万人と推計されており、65歳以上の高齢者の7人に1人です。しかし2025年には約700万人、5人に1人になると見込まれています(※1)

さらに、厚生労働省は、認知症とその予備軍とされる「軽度認知障害(MCI)」の人口は862万人(65歳以上の4人に1人)存在すると発表しています。2025年には65歳以上の2人に1人が認知症またはその予備軍になると考えると、驚くほど認知症は身近な存在です。

■認知症と物忘れはどう異なるのか?

「物忘れ」は高齢者における生理的な現象であり、高齢になると誰でも物忘れをするものと考えられていた時期がありました。しかし最近の脳科学の展開により、加齢により必ずしも脳神経細胞の減少を認めないこと、健康な高齢者では脳の糖代謝・血流量は加齢による低下がほとんど認められないこと、といった事実が明らかにされ、すべての人が物忘れを呈するわけではないという理解がなされるようになりました。

現在は、物忘れは最も早期の「病的状態」として位置づけられ、認知症の予防、克服という観点からは重要な段階と考えられています(※2)

■知っておきたい認知症の種類

「認知症」とは、実は病気の名前ではなくて、“状態”のことを指します。すなわち、様々な原因で脳の働きが悪くなり、知能・記憶・見当識を含む認知障害や、人格変化などを伴うようになった“状態”のことを指すのです。その原因は多岐にわたります(※3)

認知症の原因疾患:認知症の70%はアルツハイマー型認知症である。次いで脳血管性認知症、レビー小体型認知症と続く。(現実には一つの病型によらない混合型も多く存在し、資料によって数字は若干異なる。)

それでは代表的な3つの認知症について、それぞれの特徴を解説します。

(1)アルツハイマー型認知症
細胞外のプラーク形成(老人斑)と、細胞内の異常タウ・タンパク質による神経原線維変化が、海馬を中心に脳の広範囲に出現することで、脳の神経細胞が死滅していきます(※4)。すると、認知機能障害(もの忘れ等)だけでなく、物盗られ妄想、徘徊などの症状が現れます。

(2)脳血管性認知症
脳梗塞、脳出血などが原因で、脳の血液循環が悪くなり、脳の一部が壊死してしまいます。認知機能障害(まだら認知症)のみだけでなく、脳のダメージ部位に応じて手足のしびれ・麻痺、感情のコントロールがうまくいかない、などの症状が現れます(※5)

(3)レビー小体型認知症
レビー小体という特殊な物質が脳にできることで神経細胞が死滅してしまいます。認知機能障害の他に、パーキンソン症状や睡眠時の異常言動などの症状が現れます(※6)

■注目の認知症予備軍(MCI)とは

これらの認知症に加えて、認知症予備軍として「軽度認知障害(MCI)」が注目されています。その背景には、 認知症になるまでに適切な治療・予防をすることで症状が回復したり、発症を遅らせることができることがわかってきたからです。

この認知症と認知症予備軍(MCI)の違いとは何でしょう?

MCIとは、認知機能(記憶力、言語能力、判断力、計算力、遂行力など)に多少の問題が生じているが、日常生活に支障がない状態の“認知症グレーゾーン”のことです。臨床症状がほとんどないこの時点で、実はすでに脳に認知症の変化が起こっているのです(※7)

認知症になると認知機能がさらに低下しますが、それに加えて精神症状や行動の異常が出現します。具体的には、妄想、うつや不安感、無気力などの精神症状と、徘徊、興奮、攻撃、暴力などの行動の異常です。

これらの症状は本人の日常生活の質を著しく低下させるだけでなく、接する日時や人によっても大きく異なるため介護する人に取っても大きな負担となります。

認知症になるまで:認知機能正常の期間であっても細胞レベルで脳に変化が起こる。(アミロイドβタンパクやタウ・タンパクなどの蓄積)認知症予備軍の時期になると細胞レベルを超えて画像でも確認できるくらいの変化が脳に起こる。症状が進むと、記憶力の低下とともに性格の変化や睡眠障害などの「周辺症状」が現れる。

■早期発見・早期介入の3つの手がかり

認知症予備軍というのは、良くも悪くも認知障害が不安定な状態です。これまでの報告では、一旦は MCIと診断されても後日の評価で知的に正常と判定される確率は14- 44%とかなり高率です(※8)

一方、予備軍から認知症へ進展してしまう確率は年間10%とされ、こちらも高い確率です (※9)。 この境目のポイントとして、初期のアルツハイマー病では自分の記憶障害が進行していくことを自覚していることが挙げられます。中等症以上に進行したアルツハイマー病の多くは、自分の記憶障害についての認識は失われてしまうのです。

また、認知症を早期発見するための手がかりとして、

(1)話題が乏しく限られている
(2)同じことを何度も尋ねる
(3)今まで出来た作業にミス又は能率低下が目立つ

の3点が挙げられます(※10)。もしこれらの兆候に気づいたら、医療機関に相談することをお勧めします。

*  *  *

以上、今回は認知症の概要と、早期発見の心得について解説しました。家族が「おかしい」と気づくころには、すでに認知症に移行していることもよくあります。認知症予備軍の時点で発見するためには家族全体で認知症に対する予防意識を、日頃から高めておくことが重要です。

【参考文献
※1 日本における認知症の高齢者人口の将来推計に関する研究

※2  日本未病システム学会雑誌 2008: 14; 64-7
※3 WHO 2012
※4 Cell 2005; 120: 545–55
※5 Chonnam Med J. 2011; 47: 66–71
※6 Lancet 2015; 386: 1683–97
※7 Neurobiol Aging 2006: 27; 190-8
※8 Ann Neurol 2008: 63; 494-506
※9 Int Psychogeriatr 2004: 16; 129-40
※10 日老医誌 2007;44:305―307

文/中村康宏
関西医科大学卒業。虎の門病院で勤務後New York University、St. John’s Universityへ留学。同公衆衛生修士課程(MPH:予防医学専攻)にて修学。同時にNORC New Yorkにて家庭医療、St. John’s Universityにて予防医学研究に従事。

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