文/鈴木拓也
「運転中にヒヤリとすることが多くなった」というサライ世代は少なくないだろう。感覚や判断力の衰えを自覚して、免許証の自主返納を考える方もいらっしゃるかもしれない。
今や運転免許保有者の約2割(約1,800万人)が65歳以上となり、日本の車社会も確実に高齢化が進んでいる。それを受け、2017年には道路交通法が改正され、一定の違反行為があれば認知機能検査を受けさせるなど、運転技能のチェック体制が厳格になりつつある。
そんな中、シニア世代が運転を続けるための情報や対策を盛り込んだ書籍『運転を続けるための認知症予防』(JAFメディアワークス)を上梓したのが、日本認知症予防学会理事長で鳥取大学医学部教授の浦上克哉氏だ。
本書で浦上教授は、「より一層、安全に気をつける必要があります」と前置きしながら、仮に軽度認知障害(MCI)であってもできる、安全運転のコツを多数載せている。
今回は、そのうち幾つかを紹介しよう。
■コツ1:出発前に目的地への道順を思い描く
軽度認知障害(MCI)になると、目的地や道順を忘れたり、間違えることがある。それを防止するには、出発する際に、どこへ向かい、何をするのか、道順を頭に描いて確認しておくとよいという。また、同乗者がいる場合、事前に確認し合うのも有効だ。
■コツ2:車間距離とキープレフトをしっかり意識する
軽度認知障害(MCI)で衰える機能の1つに、自分との距離を測る空間認知機能がある。これが衰えると、車間距離や走行車線を保てなくなることがあるという。
そこで、区画線などを参考に、車間距離と走行車線を保持するよう意識するとよいそうだ。
■コツ3:足の関節や筋肉を鍛えておく
高齢になると、関節・筋肉が硬くなる。これにMCIによる判断の遅れが加わって、アクセル/ブレーキの動作がどうしても遅くなる。
そこで、ふだんからイスを使った以下のようなトレーニングをしておくとよいという。
(1)椅子に座って爪先を上げる。
(2)次ぎにかかとを上げる。これを繰り返す。
また、新車の購入を考えているのであれば、衝突被害軽減ブレーキ、ペダル踏み間違い防止装置などの先進安全技術が導入された車種の検討がオススメだという。補助金を出してくれる自治体もあるというから、ぜひ調べておきたい。
前方衝突や車線逸脱といった危険事象を知らせる安全運転支援機能搭載のドライブレコーダーも市販されている。自分の運転が危険なものになっていないかを後でチェックできるなど、多機能化されているので、クルマの買い替えと合わせて検討に値するだろう。
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車の運転は、注意力や判断力といった様々な能力を鍛え、外出やリフレッシュの機会を増やすことで、認知能力の低下を抑える効果もあるという。本書には、高齢者が知っておきたい運転のコツだけでなく、自分がMCIであるかの判定・対処方法、認知症への進行を防ぐためのメソッドなども豊富に解説されている。末永く安全運転を続けたい方には、ぜひお勧めしたい1冊である。
【今日の健康に良い1冊】
『運転を続けるための認知症予防』
(浦上克哉著、本体2,300円+税、JAFメディアワークス)
文/鈴木拓也
老舗翻訳会社役員を退任後、フリーライター兼ボードゲーム制作者となる。趣味は散歩で、関西の神社仏閣を巡り歩いたり、南国の海辺をひたすら散策するなど、方々に出没している。
イラスト/伊東ぢゅん子(http://itojunko.com)