文/印南敦史
『50歳をすぎて「最近、気力・体力が落ちた」と思ったら読む本』(平澤精一 著、フォレスト出版)というタイトルを目にして、「自分のための本かもしれない……」と感じられた方は決して少なくないだろう。
もちろん50歳になった途端、タイマーが作動するかのように気力や体力がガタ落ちするわけではない。とはいえそのくらいの年齢になると、程度の差こそあれ、さまざまな変化が生じてくるものではあるのだ。
なお医師である著者によれば、40代後半以上の人が「気力・体力が落ちた」「疲れやすい」「イライラする」「気分が晴れない」「なんとなくうつっぽい」というようなことを感じるとしたら、更年期に入っている可能性もあるらしい。
更年期は女性だけに限った現象ではなく、男女平等に存在するものなのです。しかも女性の場合は更年期を抜けたらバリバリと元気を取り戻していくのに対し、男性の場合は更年期をきっかけにして、どんどん心身がつらくなっていく一方なことも少なくありません。(本書「はじめに」より)
理由は、男性ホルモンの「テストステロン」が少なくなっている可能性があるから。更年期を抜けた女性が元気を取り戻すのは、女性ホルモンが減少する一方でテストステロンが増えていくためだ。ところが男性の場合、男性ホルモンの分泌は20代をピークとして年々少なくなっていくというのである。
しかも厄介なのは、ストレスによってテストステロン減少の度合いが加速すること。加齢だけが原因なのではなく、40代後半以降は仕事や人間関係、家族のストレスが、テストステロン減少に追い打ちをかけてくるそうなのだ。
だが、テストステロンの減少による不調は改善できると著者は主張する。そこで本書では、さまざまな角度から解決策を提示しているわけである。今回は「食事」に焦点を当てた健康習慣のなかから、「お酒」について意識しておきたいことをご紹介したい。
1日の仕事を終えた後のビールや晩酌を習慣にしている方も多いだろうが、テストステロンを増やすことを考えると、ビールに関しては注意が必要であるようだ。
ビールの原料にホップが使われていることは有名だが、このホップに含まれている「ナリンゲニン」という成分には女性ホルモンに似た作用があることがわかっているというのだ。つまりビールをたくさん飲めば、相対的に男性ホルモンの分泌量が減ってしまう可能性があるということだ。
厚生労働省がお酒の適量として推奨するのは、純アルコールで20g以下。ビールなら350ml(ビール1缶分)です。私もテストステロンへの影響を考えると一日に飲む量はこの範囲にとどめておくべきだと考えています。(本書89ページより)
とはいえもちろん、適量のお酒を飲むことでリラックスできたり、血流がよくなったりもする。飲むこと自体が悪いわけではないが、飲むならポリフェノールを多く含む赤ワインがいいようだ。
赤ワインに含まれるのは、ポリフェノールの中でもより強力な抗酸化作用のある「レスベラトロール」という物質です。レスベラトロールは「長生きポリフェノール」とも呼ばれ、細胞の酸化を防ぎ、人間に備わっている長寿遺伝子を活性化させる働きがあるのです。(本書90〜91ページより)
ただし当然のことながら、抗酸化作用を期待できる赤ワインであっても、飲みすぎてしまったのでは生活習慣病につながる恐れがある。つい飲みすぎてしまうのは酒好きの悪い癖だが、注意はやはり必要だということだ。
なお、テストステロン分泌の低下を含めた男性更年期障害は生活習慣病の一種。したがって糖尿病、高血圧、高脂血症、脂質異常といった生活習慣病を防ぐための対策は、テストステロンの減少にも有効だというわけである。
つまりそういう意味でも、お酒の適量は守ったほうがよいのだ。ちなみに先述した厚生労働省の推奨量では、ワインは2杯程度(240ml)が適量とされている。
さらには、お酒とセットで食べるおつまみも、テストステロンの生成によい影響を与える食材メインに選ぶ意識を持ちたい。たとえば「意識して食べたいもの」のひとつとして紹介されているのが、タンパク質をしっかりとれる食材だ。
タンパク質は魚や肉、大豆に多く含まれていますが、肉なら脂肪の少ない赤身肉をおすすめします。特に牛肉の赤身肉には脂肪の燃焼を促してくれるL-カルニチンという栄養素が多く含まれているので、積極的に食べましょう。(本書105ページより)
また、赤ワインに合いそうな食材としては、リコピンが豊富なトマトもいいという。トマトに含まれるクエン酸は、テストステロンの生成に関わっていると考えられている亜鉛の吸収も高めてくれるからだ。
トマトは生で食べることも多い野菜ですが、リコピンを摂取することを考えると、加熱されている料理がおすすめです。加熱によって細胞膜が壊れ、吸収率が高まるためです。また、リコピンは油に溶けやすい性質があるため、油を使った料理であればさらに吸収率が高まります。トマト炒めやチーズ焼き、トマトをふんだんに使ったメニューが多いイタリア料理もいいでしょう。(本書113ページより)
たしかにイタリア料理と赤ワインは相性抜群なので、ぜひ取り入れてみたいところ。ただし、これらは数ある“意識して食べたい食材”の一部なので、詳しくは本書を確認していただきたい。
文/印南敦史 作家、書評家、編集者。株式会社アンビエンス代表取締役。1962年東京生まれ。音楽雑誌の編集長を経て独立。複数のウェブ媒体で書評欄を担当。著書に『遅読家のための読書術』(ダイヤモンド社)、『プロ書評家が教える 伝わる文章を書く技術』(KADOKAWA)、『世界一やさしい読書習慣定着メソッド』(大和書房)、『人と会っても疲れない コミュ障のための聴き方・話し方』『読んでも読んでも忘れてしまう人のための読書術』(星海社新書)、『書評の仕事』(ワニブックスPLUS新書)などがある。新刊は『「書くのが苦手」な人のための文章術』( PHP研究所)。2020年6月、「日本一ネット」から「書評執筆数日本一」と認定される。