文/印南敦史
年齢を重ねていくに従い、避けることが難しくなっていくもののひとつに「腰痛」がある。もうすでに腰に爆弾を抱えているという方も多いことだろう。
そこでご紹介したいのが、『あなたの腰痛が治らないのは治し方を間違えているから』(日本腰痛研究開発機構著、アスコム)である。
本書の最大の特徴は、腰痛の「原因」に焦点を当てていることだ。もしも痛いと思うなら、そこに必ず原因はあるということ。当たり前のようだが、この点に着目した書籍は意外に少ない。
たとえこれまで「気のせい」と片づけられた腰痛でも、あなたが少しでも痛みを感じる限り、そこには必ず原因があります。しかしそれは、単純に腰だけを検査すればよいわけではなく、腰以外に原因が潜んでいることも多いのです。(本書3ページより)
日本整形外科学会によれば、全国に「腰痛持ち」は約3000万人いるのだという(「腰痛に関する全国調査」)。つまり日本人の4人に1人が腰痛に悩まされているということになるが、そのうちおよそ85%が原因不明なのだそうだ。
そのため慢性的な腰痛を抱える人の多くは、治すことではなく、「痛みとうまくつきあうこと」を考えるようになる。「これは持病だから仕方がない」と諦めてしまうわけである。
しかし腰痛が治らないのは、本当の原因がわからないまま治し方を間違えているからなのだと著者は主張する。正しい原因さえわかれば、腰痛は治すことができるということだ。
逆に言えば、腰痛が治らないのは、「もう治す方法がない」からではなく、治すべき腰痛の原因を正しく捉えきれていないだけだということ。
だが、ひとくちに腰痛といっても、その原因はさまざまだろう。あらゆることが複合して発生するだけに、患者の数だけ原因が分かれるといっても過言ではない。
喫煙習慣や食生活が原因であるケースもあれば、足首や肩甲骨など、腰とは関係なさそうな部位が硬いせいで治らない場合もある。寝ている間に腰を痛めてしまっている人もいれば、脳や心の問題で痛みに悩まされる人もいる。
“人それぞれ”であるからこそ、慢性的な腰痛の原因を正しく捉えることなく、腰を揉みほぐしたり温めたりしても痛みからは解放されない。根本的な原因を取り除かない限り、意味がないのである。
だとすれば、厄介な問題が絡んでくることにもなるはずだ。喫煙習慣から睡眠、脳の問題まで、原因がそれぞれ異なるとしたら、それらを一人の専門家がカバーすることは不可能だということだ。
そこで本書では、慢性腰痛に精通し、数々の症例を目の当たりにしてきた腰痛の専門家5人(整形外科医、アスレティックトレーナー、理学療法士、痛み専門医、呼吸器内科医)の知見を集め、さまざまな角度から腰痛の原因を解き明かしているのである。
今回は第2章「整形外科医に聞く! 悪い『生活習慣』が腰を蝕む」のなかから腰痛に関する「4つの負債」をご紹介したい。
まず1つ目は「食生活」。肥満は腰痛を招く要因のひとつだと考えられているというのだ。そして肥満を招く生活習慣といえば、やはり食事の影響が大きい。
食べすぎや栄養の偏った食事は、糖尿病、高血圧、メタボリック症候群をはじめとする生活習慣病の引き金になる。そこで慢性腰痛に悩んでいる人は、肥満を解消すれば腰痛が改善されるかもしれないことも含め、食生活の改善を考えてみるべきなのだ。
2つ目は、「運動習慣」。発症したばかりの腰痛を除けば、腰痛の予防や改善において、運動は基本的にプラスの効果があると考えられているのだという。
しかも慢性的な腰痛の場合は、安静にすることがむしろマイナスになることもあるのだというのだから驚かされる。「身体的な面はもちろん、運動できないことが心理社会的な面で悪影響を及ぼす可能性もある」というのがその理由だ。
特に、長時間のデスクワークや車の運転など、同じ姿勢を続けることを強いられる生活をしている人は要注意。仕事の合間にストレッチするだけでも症状を軽減できることもあるので、取り入れてみたほうがよさそうだ。
3つ目は「喫煙習慣」。喫煙の習慣がある人は、禁煙することが腰痛改善につながる可能性があるということである。理由は、喫煙が血管を収縮させるから。椎間板の周囲にある毛細血管も収縮するため、栄養が行き渡らずに椎間板の編成を招き、腰痛につながるのだ。
椎間板は脊髄の間にある円板状の軟骨で、脊髄にかかる衝撃を吸収するクッションの役割を持っている。しかし毛細血管が収縮して栄養が行き渡らなくなると、水分が失われてクッション性がなくなる。そのため、椎間板の変性は腰痛の原因のひとつと考えられているということ。
そして4つ目は「睡眠習慣」。腰痛を経験したことのある人ならわかるだろうが、仰向けで足を伸ばして寝る姿勢は腰に負担をかけることになる。理由は、立っている状態での自然な脊髄カーブが崩れるから。
そのため、仰向けで寝るのがつらい場合は、横を向いて少し膝を曲げて丸まったようない姿勢をとると、腰への負担が軽減されることがあるそうだ。とはいえ個人差はあるので、もっとも痛みが軽減される姿勢を自分で試してみることが大切だということ。
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これらほんの一部を確認してみるだけでも、本書のメリットはイメージしていただけるのではないだろうか。5人の専門家の知見がベースになっているだけに、強い説得力があるのだ。
腰痛に悩まされている人なら、手にとってみてはいかがだろうか。
『あなたの腰痛が治らないのは治し方を間違えているから』
日本腰痛研究開発機構(著/文)秋田護(監修)新井康希(監修)塩多雅矢(監修)河合隆志(監修)宮崎雅樹(監修)
発行:アスコム 定価 1,300円+税
2018年12月発売
文/印南敦史
作家、書評家、編集者。株式会社アンビエンス代表取締役。1962年東京生まれ。音楽雑誌の編集長を経て独立。複数のウェブ媒体で書評欄を担当。著書に『遅読家のための読書術』(ダイヤモンド社)、『プロ書評家が教える 伝わる文章を書く技術』(KADOKAWA)、『世界一やさしい読書習慣定着メソッド』(大和書房)、『人と会っても疲れない コミュ障のための聴き方・話し方』などがある。新刊は『読んでも読んでも忘れてしまう人のための読書術』(星海社新書)。