文/印南敦史

失敗を恐れずに進むことが特効薬|『「感情の老化」を防ぐ本』

「昔にくらべ、なにかに感動しなくなった」とか、嫌なことがあると、ずっと引きずってしまうとか。あるいは、アイデアが湧かなくなったり、「頑固になったな」と感じることがあったり。

もし多少なりともそんな自覚症状があるのなら、感情が老化しはじめているからかもしれない。精神科医である『「感情の老化」を防ぐ本』(和田秀樹著、朝日新聞出版)の著者は、そのように指摘している。

一般的に「老化」と聞いて思い浮かぶのは、「健康」「脳」「見た目」の3つではないだろうか? そのため多くの人は体の健康管理をし、頭を使って脳機能の低下を防ぎ、美容やファッションに気を遣うわけだ。

もちろんそうした努力は必要だが、それ以前に手を打つべきは「感情の老化防止」「感情年齢を若々しく保つこと」だというのである。

なお感情年齢は、前頭葉と密接な関係にあるのだそうだ。泣いたり笑ったりといった原始的な感情より、もっと微妙で高度な判断を担っているのが前頭葉。その仕事は、なにかに感動したり、好奇心やときめきを持ったり、やる気を出したり、気持ちのコントロールや切り替えをすることだ。

ところが画像診断のうえでの「前頭葉の萎縮」は40代ごろからはじまり、放置しておけばどんどん進行していくことに。その結果、なにを見てもおもしろくないし感動しない、やる気が起きないし、気持ちの切り替えもできないという状態になってしまうというのだ

いまどきの40代といえば、俳優の長谷川博巳、ムロツヨシ、伊勢谷友介、女優なら菅野美穂、井川遥、中谷美紀などが思い浮かぶ。どう考えても「老化」とは結びつかないのだが、前頭葉の老化は、脳のほかの部分よりも早く始まるのだそうだ。

そして、感情は使わないと老化してしまうものでもある。気持ちを弾ませないと心はどんどん弾力を失い、伸びきったゴムのように退化してしまうというのである。

なにを聞いてもなにを見ても、なかなか関心が湧いてこないのは感情が老化している証拠。放っておくと感情老化は急速に進んでしまうため、できるだけ早くストップをかけることが必要になる。

40歳代から始まる感情老化を食い止めるには、萎縮し始めた前頭葉に「活」を入れ、脳を甘やかさないのが一番。そのためには、マンネリ化した生活を見直し、積極的に驚きや感動と出会うのが早道です。(本書84ページより)

そのための特効薬として著者が勧めているのが、失敗を恐れずに進むこと。もちろん誰しも失敗は避けたいものだが、失敗を恐れるあまり、なんの刺激もない生活を続けるのは危険。それが感情の劣化を促進させることになってしまうからだ。

それよりも大切なのは、多少の失敗があったとしても前に向かって進むこと。そんなチャレンジ精神と意欲が、感情の老化を食い止めるなによりの特効薬になるというのである。

リスクを考えて慎重に行動すれば、確かに失敗はしなくなるだろう。しかし、やがて変化のないマンネリ生活に抵抗がなくなってしまう可能性がある。それで自分の気持ちは落ち着いているのかもしれないが、問題はマンネリ生活が続くほど感情の老化が進むこと。

感情老化を促進するのは、決まりきったことを続ける刺激のない生活。よって、それを変えない限り感情の老化も止まらないという考え方だ。

同い年なのに新しいことにどんどんチャレンジしたり、いろんなことに興味を持って生きている人は、外見までエネルギッシュで若々しく見えるものだ。それは、ハリのある気持ちが表面にまで表れているからだというのである。

逆にいえば、心に活気や意欲がない人が、若々しく見えるはずがないのだ。

 年を取ると「最近は何を見ても昔ほど感動しない」という声をよく聞きますが、これは前頭葉の働きが衰えて、少しの刺激では感情が動かなくなったからでしょう。
詳しくいうと前頭葉の中の「前頭前野(ぜんとうぜんや)」という部分が感情をつかさどる中枢なのですが、実はこの前頭前野の大好物は「ときめき」なのです。ドキドキ、ワクワク、ときめく心があれば、いつまでも老化と無縁でいることも夢ではありません。
「胸がワクワクするようなことを見つける」「楽しいと思えることはなんでもやってみる」。そんな単純なことで前頭葉の老化が防げるなら、やってみない理由はないでしょう。(本書86~87ページより)

シニア世代の男女を比較すると、やはり女性のほうが若々しく感じられる。それは女性のほうが好奇心旺盛で、楽しいことを見つけるのがうまいからではないかと著者は記している。

おしゃべりや買い物、旅行や観劇など、どんなことにも関心を持てる中高年女性は、前頭前野が喜ぶ材料をたくさん持っているようなもの。しかしその一方、仕事一筋に生きてきた中高年男性には楽しみに対して淡白な人が多い。なかなか心からの楽しさを感じたり、開放感を味わったりできないということである。

しかし、ずっと遊び心を持たずにいると心の柔軟性が失われ、感情の老化が進行することになる。そこで、もし本気で脳の若さを保ちたいのなら、まず自分が「楽しいと思えること」「気持ちがワクワクときめくこと」を探し出すべきなのだ。

 頭も体も使い続けることで若さを保てるのですから、それをするための意欲が重要なのです。
だからこそ、感情の老化を防ぎ、感情年齢の若返りを図ることこそが、心身の健康維持や、生き生きとした人生を送るための最重要ポイントです。(本書「はじめに」より引用)

なお本書の冒頭には、自分の「感情年齢」を自覚するための「感情老化」度テストが掲載されている。改めて自分と向き合えば、さまざまな気づきを得ることができる。だからこそ、まずは軽い気持ちでテストを利用してみてはいかがだろうか?

『「感情の老化」を防ぐ本』

和田秀樹著

朝日新聞出版

定価:1080円(税込)

2019年3月発売

「感情の老化」を防ぐ本

文/印南敦史
作家、書評家、編集者。株式会社アンビエンス代表取締役。1962年東京生まれ。音楽雑誌の編集長を経て独立。複数のウェブ媒体で書評欄を担当。著書に『遅読家のための読書術』(ダイヤモンド社)、『プロ書評家が教える 伝わる文章を書く技術』(KADOKAWA)、『世界一やさしい読書習慣定着メソッド』(大和書房)、『人と会っても疲れない コミュ障のための聴き方・話し方』などがある。新刊は『読んでも読んでも忘れてしまう人のための読書術』(星海社新書)。

 

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