文/印南敦史
「運動しなければ……」と思いつつ、なかなか行動に移せないという方は決して珍しくないことだろう。『医師に「運動しなさい」と言われたら最初に読む本』(中野ジェームズ修一/著、田畑尚吾/監修、日経BP社)の著者も、本書の冒頭でまずはそのことを指摘している。
厚生労働省の「国民健康・栄養調査」によると、20〜64歳で運動習慣のある人はわずか21%でしかないというのだ(2016年)。この結果から、いかに運動している人が少ないかが推測できるわけである。
そして本書も、そのような現実を踏まえたうえで書かれている。著者は、アスリートから一般の人までの幅広い層に対し、身体機能を向上させるトレーニングの指導をしている「フィジカルトレーナー」である。
この本は、「運動したほうがいいと分かっていたけれども、どうしても一歩を踏み出せない」という人に向けて書きました。
医師に「運動しましょう」と言われた経験がある方は、このままだと病気になる可能性があったり、すでに何らかの症状が出ていたりする状態にあります。
そのような人には、運動を始めるハードルをなるべく下げつつも、やればきちんと成果が出るメニューが必要です。
これまで運動をしたことがなかった人、運動が苦手だと思っていた人でも取り組みやすく、時間がなくても続けられて、成果が得られるようなメニューを、この本のために考案しました。(本書「はじめに」より引用)
つまり解説に沿ってエクササイズに取り組めば、無理なく運動習慣を身につけられるということだ。今回は、素朴な疑問に答えてくれている第9章「Q&Aで学ぶ『効果的な運動』とは?」のなかから、3つのQ&Aを抜き出してみたい。
Q:ウエストから下についた余分な脂肪を落とすために、1日1万歩弱、早足で、姿勢を気にしながら歩いていますが、なかなか落ちません。(40代後半女性)
A:スクワットと運動強度の高い有酸素運動で下半身の脂肪を落としましょう。
(本書204〜2-5ページより)
余分な脂肪を落とすために運動するのはいいことだが、成果が出ないということには理由があると著者は指摘している。この程度のウォーキングでは運動強度が低く、脂肪の燃焼効率が悪いと推測されるというのである。歩くときに姿勢に気をつけたとしても、それで運動強度が上がるわけではないということだ。
人は誰でも20代をピークに筋肉量が年に1%程度の割合で減っていきます。特に下半身の大きな筋肉群が減ってくると、基礎代謝が下がってきます。それで下半身の脂肪がつきやすくなってきたと考えると、大殿筋から大腿部の大きな筋肉群を鍛えて基礎代謝を上げるような運動を行ったほうがいいですね。(本書204ページより)
そのためには、簡単で手早くできるスクワットなどのエクササイズがいいそうだ。また、併せて強度の高い有酸素運動を行うと、効率的に脂肪を落とすことが可能。具体的には、時間が短くてすむので、ジョギングをするのも効果的だという。
食事に関していえば、「ランニングはやりたくない、ウォーキングがいい」という人は、運動強度が低いため、摂取カロリーのコントロールが必要。筋肉を作るための栄養バランスが整った食事にしなければならないので、筋肉を作る材料である「たんぱく質」もしっかりとって運動するように心がけるといい。
Q:一念発起し、シックスパックを目指して筋トレを始めました。仕事の都合でジムには週に1回しか通えません。これで腹筋は割れますか?(50代前半男性)
A:皮下脂肪を落として腹直筋を浮かび上がらせましょう。
(本書210〜211ページより)
男性にとって憧れのシックスパック(腹直筋が6つに割れた状態)になることは、50代になってからでも可能だと著者は言う。男性は腹部の皮下脂肪を落としていけば、腹直筋が浮き上がってくる可能性が高くなるというのだ。
懸命に腹筋を鍛えているのにシックスパックができないという人は、腹筋の上に体脂肪という座布団が乗っていることが多いのだとも著者は指摘している。
だとすれば必要なのは、体脂肪を落とすためのアプローチ。そこで必要になるのは、筋トレよりも、摂取カロリーのコントロールと有酸素運動だ。そうして皮下脂肪を落とした状態になったら、腹直筋を隆起させるために、高負荷をかけるトレーニングを行えば、きれいなシックスパックができることになる。
ただしジムに週1回しか通えないということなのであれば、その他に家で自重トレーニングもしないと難しいそうだ。
Q:「筋トレ後、すぐに有酸素運動をすると、体脂肪を減らすのに効果がある」と思っていました。ところが、あるお医者さんが、「筋トレ後の有酸素運動は体脂肪を減らすのにあまり効果がない」と言っている記事を読みました。本当はどちらなのでしょうか?(50代後半男性)
A:諸説あるなら、自分の好みを優先して選んでもOK。
(本書212〜213ページより)
いろいろな説があるので一概には言えないものの、たしかに現在のトレーナー業界においては、「筋トレ後の有酸素運動は脂肪を減らすために有効だ」という考え方が一般的。しかし諸説あるのなら、自分でそれぞれの方法を2〜3カ月ずつ続けてみて、どちらの方が効果的なのか試してみるのもひとつの手だという。
なお、著者自身はランニングをしてから筋トレをしているのだと明かしている。しかも、それは科学的、運動生理学的な理由によるものではなく、「そのほうがやる気が出るから」という個人的な理由からだというのだ。
だとすれば効果が下がることも考えられるが、そのほうがモチベーションが高まるというのである。
筋トレをして疲れてから走るよりも、疲れていない状態で気持ちよく走りたいという考え方。なるほど「継続」することが大切なのだから、モチベーションを高めるためには順番にこだわらなくてもいいということなのだろう。
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具体的なエクササイズのみならず、運動の効果をより高めるために、病気や体の仕組みから解説し、「なぜ運動することで改善されるのか」ということにもページが割かれている。しかも内容の正確性を高めるため、慶應義塾大学医学部スポーツ医学総合センターの意志である田畑尚吾氏に監修を委ねている。
そのため、さまざまな角度から運動や健康に関する知識を身につけることができるというわけだ。
『医師に「運動しなさい」と言われたら最初に読む本』
中野ジェームズ修一/著、田畑尚吾/監修
日経BP社
2018年10月発売
文/印南敦史
作家、書評家、編集者。株式会社アンビエンス代表取締役。1962年東京生まれ。音楽雑誌の編集長を経て独立。複数のウェブ媒体で書評欄を担当。著書に『遅読家のための読書術』(ダイヤモンド社)、『プロ書評家が教える 伝わる文章を書く技術』(KADOKAWA)、『世界一やさしい読書習慣定着メソッド』(大和書房)、『人と会っても疲れない コミュ障のための聴き方・話し方』などがある。新刊は『読んでも読んでも忘れてしまう人のための読書術』(星海社新書)。