文/鈴木拓也

糖質がなければ脳はパワーを発揮できない

人間の脳は、体重の2%しか重量がないのにもかかわらず、体全体が必要とするエネルギーの20~25%を消費する。

また、記憶の中枢である海馬には、脳グリコーゲンが蓄えられており、何かを記憶するときにこれが消費される。
そして、脳のエネルギーや脳グリコーゲンの原料となるものは「糖質」。
だから、厳しい糖質制限ダイエットをしていて、新しいことが覚えられないとか、集中力が途切れがちになるといった実感があれば、原因は糖質不足かもしれない。

だからといって、「脳のために」と糖質をたくさん摂るのも考え物。
糖質(ブドウ糖)が血流に大量に流れ込むと、血糖値が一気に上がる。このとき、すい臓からインスリンが大量に分泌され、血糖値は急激に下がる。この血糖値の急上昇・急下降を血糖値スパイクと呼ぶが、それが起きると「集中力、記憶力、実行機能、認知力、セルフコントロール力など、脳が司っている多くの力が衰えてしまう可能性がある」からだ。

こう解説するのは、脳科学者の西剛志さん。西さんは、少なすぎても多すぎてもいけない糖質の正しい摂り方を、著書『脳科学者が教える集中力と記憶力を上げる 低GI食 脳にいい最強の食事術』(アスコム)にて指南している。

糖質不足も血糖値スパイクも防ぐ食事法

本書で、西さんがすすめる糖質の摂り方のキーワードは「低GI食」。

この言葉、血糖値が気になる方なら、聞いたことがあるだろう。GI(グリセミック・インデックス)とは、血糖値の上がりやすさを相対的に表した数値で、ブドウ糖そのものであれば100となる。

「低GI食」とは、GIの数値が低い食品のこと。甘みが強いもの、精白したもの、食物繊維が乏しいものは、概してGIが高い。逆に、甘すぎず、精白せず、食物繊維豊富なものは、GIが低いものが多い。

そうした「低GI食」であれば、血糖値スパイクを防ぎつつ、脳が必要とするエネルギーを補給できる。もちろん、糖尿病の予防になるし、関連して認知症の発症リスクも減らせるし、ダイエットにも役立つ。
本書には、低GIの食材を使ったレシピも載っている。以下、1例を紹介しよう。

超低GIパスタ弁当(ツナとトマトの白滝パスタ&グリーンサラダ)

ツナとトマトの白滝パスタ

【材料(2人分)】
・白滝:400g
・ツナ缶:2缶
・カットトマト缶:200g
・コンソメ:小さじ2
・塩:小さじ1/2
・こしょう、パセリ:各少々

【作り方】
1 白滝は水気をきり、フライパンにそのまま入れて炒めながら水分を飛ばす。
2 水分がなくなってきたらツナ缶(水気をきらずにそのままでOK)、カットトマト缶、コンソメ、塩、こしょうを入れて炒め合わせる。お好みでパセリを散らす。

グリーンサラダ

【材料(2人分)】
・レタス類:150g
・ブロッコリー:60g
・きゅうり:1/3本
・ドレッシング:お好みのもの(もしくはオリーブオイルと塩)

【作り方】
1 ブロッコリーは小房に分けて耐熱容器に入れ、ラップをかけて電子レンジで1分加熱する。容器にレタス、食べやすく切ったきゅうりとともに盛り合わせる。お好みのドレッシングなどでいただく。

パスタでなく白滝を用いるのは、100g中の糖質が0.1gという、まさに超低GI食材だから。もっとも、連日こうしたストイックな食材ばかりにする必要はなし。「集中して仕事をしたい」とか「創造性を発揮したい」など、脳をフル稼働させたい日は、低GI食にするというのがポイント。毎日の我慢は、「脳にとっては逆効果」だと、西さんは指摘する。

また、高GI食であっても、1日5~6食と、小分けで食べれば血糖値スパイクは起こりにくくなる。さらに、野菜を最初に食べる「ベジファースト」にすれば、その後で高GI食を摂っても血糖値の上昇はゆるやかになる。こうした「裏ワザ」を取り入れることで、楽しい食生活を続けてみよう。

脳をさらに元気にする油とは?

西さんは、低GI食にプラスして「脳がさらに覚醒する12の習慣」を記している。

その習慣の1つが、「ちょい足しオリーブオイル」。
実は、脳の約65%は、脂肪酸からつくられている。つまり、日々の食事に含まれる油(脂肪)の良し悪しが、脳にも影響するわけだ。

油といってもさまざまな種類がある中、西さんがすすめているのがエクストラバージンオリーブオイル。その効用については、次のように説明されている。

マウスによる実験で、エクストラバージンオリーブオイルが脳の神経細胞の接合部分にあたるシナプスを活性化し、学習と記憶を改善する効果が確認されています。
また、オリーブオイルは、アルツハイマー型認知症の予防に効果があるとして注目されています。
オリーブオイルに含まれる成分が、アルツハイマー型認知症の原因といわれるアミロイドβの蓄積を軽減するといいます。(本書より)

摂り方としては、ふつうにサラダのドレッシング代わりにかけてもいいし、アイスクリーム、納豆、豆腐にかけても意外においしい。

このほか、摂っておきたい油として、α‐リノレン酸、DHA(ドコサヘキサエン酸)、EPA(エイコサペンタエン酸)が挙がる。α‐リノレン酸はアマニ油やえごま油に豊富に含まれ、DHAやEPAは青魚から効率的に摂れる。摂取量は、アマニ油・えごま油は小さじ1杯程度、青魚は「マグロの刺身なら2~3切れ、サンマなら3分の1尾、アジの開きなら1尾」。これで十分だ。

* * *

「最近やる気が出ない」といった漠然とした不調の原因はいろいろ考えられるが、もしかすると食事に問題があるのかもしれない。甘いものに目がない方は特に、本書で説く低GI食に目を向けてみてはいかがだろうか。

【今日の健康に良い1冊】
『脳科学者が教える集中力と記憶力を上げる 低GI食 脳にいい最強の食事術』


西剛志著
アスコム

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文/鈴木拓也 老舗翻訳会社役員を退任後、フリーライター兼ボードゲーム制作者となる。趣味は神社仏閣・秘境巡りで、撮った映像をYouTube(Mystical Places in Japan)に掲載している。

 

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