文/鈴木拓也
ワインと相性のいい料理を組み合わせる「ペアリング」(マリアージュとも)が、近年盛り上がりを見せている。料理一皿ごとに違うワインを合わせる「ペアリングコース」を提供するレストランも増えた。これは、ワイン個別の風味についてどうこう評価するだけでなく、そこから一歩進んで料理とのマッチングを考えるという、日本のワイン文化の深化と見ることができる。
そして今年は、ワインのみならずビールのペアリングも話題になりそうだ。この背景には、クラフトビールのブームと酒税法改正によるビールの定義拡大があって、世間のビールへの関心が高まっていることが挙げられる。
さらに、ビールのペアリングをウリにした飲食店が増えているのもポイント。「とりあえずビール」という言葉が象徴するように、どちらかと言えば食前酒の扱いだったビールの飲み方も、これから変わってゆきそうだ。
とはいえ、「ペアリング」に苦手意識が先行する人の方が、まだまだ多いのが実情だ。奥が深くて、ビアソムリエでないと手が出せない世界だと思われがちだが、最小限の知識で、家庭でもビールのペアリングが楽しめる書籍『ビールのペアリングがよくわかる本』(野田幾子監修/シンコーミュージック・エンタテイメント)が刊行された。
本書には、「モルトとは何か」から始まって、ビールの種類(ビアスタイル)やグラスの選び方といった基本事項とともに、ペアリングの実践的知識が網羅されている。
それによれば、ペアリングには「色を合わせる」、「国を合わせる」、「味の要素を合わせる」の3つのテクニックがあるという。
「色を合わせる」とは、ビールの色と料理の色が似た者同士を組み合わせるというもの(例えば、黒ビールのスタウトにはデミグラスソースを使った煮込み料理を合わせる)。
「国を合わせる」とは、その国で生まれたビアスタイルには、その国で生まれた料理を合わせるというもの。
色や国を合わせるのは分かりやすいが、「味の要素を合わせる」はやや上級者向け。これをマスターするには、「料理とビールが持つ要素を分解・把握する」にはじまって、3ステップの手順を理解する必要がある。
「聞いただけで頭が痛くなりそう」だって? 心配はご無用。本書の後半には、「味の要素を合わせた」ペアリングの具体例が、以下のように幾つか収められている。ひとまずこちらを読んで、調理して、味わってみれば、応用をきかせて自分でペアリングができるようになるはず。
それでは「味の要素を合わせる」ペアリングの例を、いくつかご紹介しよう。
プチトマトの和ハーブマリネ
(酸味同士のペアリング)
【作り方】(作りやすい量)
プチトマト200gを湯むきして、しょうゆ大さじ2、みりんとだし汁各大さじ1と1/2、練わさび少々を混ぜ合わせ、トマトを一晩漬け込む。器に盛り、青じそ(大葉)5枚をせん切りにしてトッピング。
これに合うビアスタイルは、ピルスナー(またはベルジャンホワイトやセゾン)。
ピルスナーを口に含み酸味の存在を確かめてみましょう。トマトと一緒にビールを味わうと、トマトを咀嚼するごとに甘味と旨味が浮き彫りになります。ホップの苦味と大葉の風味がアクセントに。
(本書69pより引用)
オレンジとハーブのサラダ
(甘味・苦味同士のペアリング)
【作り方】(2人分)
1 オレンジ1個分を房から出して3等分に、キウイ1個は皮をむいて7mmの薄切りにする。
2 フルーツを盛ってからカッテージチーズ大さじ2をのせ、レモン汁大さじ1、オリーブオイル大さじ2、塩・こしょう各少々、フェンネル少々を散らす。
これに合うビアスタイルは、セゾン(またはピルスナーやペールエール)。
柑橘やパッションフルーツ系の果物は、アメリカンホップが同系の香りを持っているため、ビール好きにはなじみ深い味と香りを再現しやすい食材。甘味と苦味が重なり合い、酸味が際立ちます。
(本書71pより引用)
コロコロステーキ
(料理の旨味とビールの酸味・苦味のペアリング)
【作り方】(1人分)
1 牛肉ステーキ用150gは2cm角に切り、焼く直前に塩・こしょうをする。
2 フライパンを熱してバター10gを溶かし、1を入れて両面を色よく焼く。しょうゆとみりん各大さじ1と1/2で味つけし、食べやすい大きさに切る。
これに合うビアスタイルは、IPA(またはペールエールやセゾン)。
噛みしめるたびにあふれる肉の旨味と脂の甘味を、IPAの苦味が浮き彫りにする組み合わせ。IPAは苦味とバランスをとるために甘味の強い銘柄が多いので、ソースの甘味はお好みで調節を。
(本書75pより引用)
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本書は、ひたすらビールのペアリングテクニックに徹した通好みの専門ガイドではなく、関係者のインタビューや対談、飲食店やビアフェスティバルの情報など、ビールをテーマとした肩の凝らない読み物としても秀逸。一読すれば、「ありふれた大衆酒」というビールへのイメージが変わるだろう。
【今日のおいしい1冊】
『ビールのペアリングがよくわかる本』
https://www.shinko-music.co.jp/item/pid0646134/
(野田幾子監修、本体1,500円+税、シンコーミュージック・エンタテイメント刊)
文/鈴木拓也
2016年に札幌の翻訳会社役員を退任後、函館へ移住しフリーライター兼翻訳者となる。江戸時代の随筆と現代ミステリ小説をこよなく愛する、健康オタクにして旅好き。