文/鈴木拓也

「ご飯を炊く」というのが、「炊飯器のスイッチを入れる」とほぼ同義になって久しい。炊飯器の蒸気口から立ち昇る湯気を見て、かまどで炊いていた時代に思いをはせるということもまずないはず。

しかし、『世界一美味しいご飯をわが家で炊く』(青春出版社)という名の新書を紐解けば、釜や鍋でご飯を炊きたい気持ちを抑えられなくなるだろう。

本書の著者の柳原尚之さんは、近茶流(きんさりゅう)の嗣家。近茶流とは、江戸時代の文化文政期に興ったといわれる柳原家家伝の割烹道の流れを汲み、今は赤坂の柳原料理教室において継承されている。柳原さんは宗家の父とともに教室で指導にあたるほか、NHK『きょうの料理』などテレビの料理番組にも登場しているので、ご存知の方もいらっしゃるだろう。

本書の中で柳原さんは、「釜や鍋で炊くのは、むずかしくありません。むしろ、とても簡単。炊き方のコツを覚えてしまえば、炊飯器より短時間で、かつ手軽に美味しいご飯を炊くことができます」と述べ、しかも「炊きたてをひと口食べただけで、いままで食べていたご飯と比べて『味も香りも全然違う!』とびっくりするはずです」と、鍋炊きご飯を絶賛している。

ここまで敷居を下げられたら、もうチャレンジしない手はないだろう。では、具体的にどう炊くのだろうか? そのコツとは? 詳細は本書をご覧いただくとして、ここでは巻頭に掲載されている、さわりの部分を紹介したい。

1. 研いだ米を鍋に移す
米の品種と鍋・釜を選び、米を研いだら(これにも秘訣があり本書で詳しい説明がある)、鍋に米を移し、米の容量の1.2倍の水を入れ、十分に吸水させる。夏なら30分、冬なら1時間が目安。

2. 蓋をして強火にかける

3. 沸騰させる
沸騰してボコボコと音がしだしたら中火~弱火にして、沸騰状態を維持。

4. 表面の水分が少なくなったら……
表面の水分が少なくなって、鍋の縁がブツブツいうようになったら弱火に。蓋をさっと開けて確認してもよい。

5. 水気がなくなったら……
水気がなくなったら、一度火を強火にして、バチバチと乾いた音がしたら、そのまま10秒間保ち、火を止める。

6. 蒸らす
蓋を開けずに10分間蒸らしたら、ご飯の水分が均一になるように、天地をひっくり返す。

炊きたてのご飯を椀によそう際には、しゃもじをひっくり返さないように注意が必要だ。ひっくり返してしまうと、しゃもじと接していたところが上になり平たくなって、空気を含んで立っていた米が下になってしまう。そうでなく、しゃもじから滑らせるように椀によそうことで、ふわっとした面が上になり、おいしく見える。

大雑把に概略すれば上のようになるが、思ったほど面倒ではないことが分かる。こまごまとしたルールはあるが、熟練のテクニックを要するわけでもない。本書の手順・留意点を愚直に励行すれば、毎日の食卓がもっとおいしくなる。本書の後半は「世界一美味しい味噌汁をわが家で作る」となっているので、併せてマスターしておきたい。

【今日のおいしい1冊】
『世界一美味しいご飯をわが家で炊く』
http://www.seishun.co.jp/book/19582/
(柳原尚之著、本体980円+税、青春出版社)


文/鈴木拓也
2016年に札幌の翻訳会社役員を退任後、函館へ移住しフリーライター兼翻訳者となる。江戸時代の随筆と現代ミステリ小説をこよなく愛する、健康オタクにして旅好き。

 

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