藤屋内匠の「湖水月」|琵琶湖の満月を表した銘菓(大津)【老舗銘菓ものがたり】

文/鈴木拓也

浅井長政の信任の厚かった武将・遠藤直経は、姉川の戦いで敗色が濃厚なのを知るや、織田軍の武将になりすまして、本陣の信長へと迫った。しかし、あと少しのところで正体が見抜かれ、討ち取られてしまう。

その子孫の遠藤仁兵衛が、太平の世に移り変わった寛文元年(1661)に菓子屋を創業する。場所は、膳所(ぜぜ)藩の琵琶湖に近接した一角。この地域は、東海道の53番目の宿場町として栄え、「大津宿」と呼ばれた。

当初、屋号は『鶴屋仁兵衛』であった。が、徳川綱吉公が娘の鶴姫を溺愛するあまり、庶民が「鶴」の字をむやみに使うのを禁じたため、伏見の宮家から『藤屋内匠』(ふじやたくみ)の屋号を仰せつかったという。

『藤屋内匠』は、大津の菓子屋のなかで唯一の京都御所御用達であり、そして膳所藩ほか諸藩の御用菓子匠も務め、その評判は広く知れ渡っていた。

当時から今に伝わる名物は、羊羹の『湖水月』。名のとおり、琵琶湖に映じる満月を表現したもので、月は栗の甘露煮を裏ごしして棒状にした餡でできている。

どこを切っても満月が現れる風情ある逸品として、膳所藩の代々の藩主に愛好された。

しっとりとしながら濃厚な味わいが楽しめる『湖水月』

『藤屋内匠』のもうひとつの看板製品は、江戸時代後期に生まれた『大津画落雁』だ。

落雁(らくがん)とは、和三盆、寒梅粉、片栗粉を手ごねし、木型に入れて成型したのち乾燥させてできる伝統干菓子の一種。「大津画」は、大津宿の土産品として、東海道を行き交う旅人に売られていた仏画や世俗画のことである。

この『大津画落雁』には、鷹匠や藤娘など大津画をもとにした意匠が9種類入っている。各画題には、「利益」や「良縁」といったいわれがあり、見るだけでめでたい気持ちにさせてくれる。

口に入れるとほろほろ溶け、心地よい甘みの『大津画落雁』

大津画の画題のほかに、「近江八景」など様々なテーマを木型に彫って落雁を作り始めたのは、明和・安政期(1764~1780)の頃だという。明和年間に彫られた落雁木型は日本最古のもので、今は大津市歴史博物館に寄託されている。

『藤屋内匠』は、京都に程近い立地と東海道上の宿場町という二つの地の利を生かした、卓越した菓子作りを実現した。先例にならい遠藤仁兵衛を襲名した第十三代の現当主は、三井寺の「弁慶の引き摺り鐘」に着想を得た『僧兵サブレー』など今様の銘菓もそろえ、350年前と同じ場所に看板を掲げている。

『和菓子十三代 藤屋内匠』本店

 

今日の老舗 『和菓子十三代 藤屋内匠』
住所(本店) 滋賀県大津市中央3-2-28
電話 077-522-3173
公式サイト http://www.e510.jp/fujiya-t/

文/鈴木拓也
2016年に札幌の翻訳会社役員を退任後、函館へ移住しフリーライター兼翻訳者となる。江戸時代の随筆と現代ミステリ小説をこよなく愛する、健康オタクにして旅好き。

取材協力/和菓子十三代 藤屋内匠

この記事が気に入ったら
いいね ! しよう

Twitter で