時季になったら新幹線に乗り、バスを仕立てて、空路を辿り日本中から産地めがけて人が動く。わざわざ食べに行きたいほどの美味、それが「蟹」。今年はどこへ、出かけようか。
水揚げ港から直送、但馬の冬の主役を満喫する
松葉がに(ズワイガニ)兵庫県城崎町
兵庫県北部に位置する 但馬地域。日本海沿岸には良港が並び、捕獲量、売上高ともに全国トップレベルのズワイガニの産地となっている。山陰地方ではズワイガニの雄を松葉がにと呼ぶ。但馬で水揚げされる松葉がには港ごとに「津居山かに」「柴山がに」「香住港まつばがに」「浜坂産松葉がに」とブランド化され、さらに「但馬産松葉がに」として地域全体の知名度のアップも目指している。
毎年11月6日の解禁とともに、蟹と温泉を打ち出す但馬の温泉地はひときわ賑わう。開湯1300年以上を誇る城崎温泉は、7つの外湯巡りが楽しめる情緒溢れる温泉地。多くの旅館や飲食店で松葉がに料理を味わえるが、『西村屋ホテル招月庭』では洋風にアレンジした蟹料理を提供。食材としての蟹の可能性を追求している。
素材を引き出す引き算の料理
ホテル内の『レストランRicca(リッカ)』ではブランド和牛の素牛として知られる但馬牛と松葉がにのコースがある。腕を振るうのは地元出身のシェフ、谷垣信吾さん(49歳)。東京の名店でフレンチとイタリアンの技術を身につけ帰郷。卓越した技で客をもてなしている。
松葉がにをひとり1杯使うコースは、遊び心ある前菜から開始。白烏賊を使ったイタリア風肉団子・ポルペッティーノに松葉がにの身をまとわせ、鰹出汁の餡、煎餅状のチーズを合わせる。烏賊と蟹の旨みが融合する上品で軽やかなひと品だ。地元の但馬野菜は蟹身を入れた特製のバーニャカウダソースで、スープは琥珀色に煮詰めた但馬牛のコンソメスープを蟹脚とともに。お造りは山葵ではなく醤油とオリーブオイルで味わい、さらに茹で蟹、焼き蟹と松葉がにを堪能する皿が次々と登場する。
「旨みの強い松葉がにはあれこれ手を加えるより、引き算をしながら美味しさを追求しています。素材としての可能性は強く感じます」と話す谷垣さん。殻を焼いて出汁を作ったり、松葉がにをベースにしたスープなど、試行錯誤を重ねているという。蟹を食べ尽くした舌の肥えた客が新しい味を求めて来店するというのも、頷ける。
城崎温泉から車で5分ほどのところに津居山港がある。早朝行なわれる津居山かにの競りは活気が溢れる。港からの漁場が近く、日帰り操業で水揚げされるため、鮮度は抜群。地元の目利きたちが次々と競り落としていく。蟹王国・但馬を象徴する冬の風物詩は、3月まで続く。
西村屋ホテル招月庭
兵庫県豊岡市城崎町湯島1016-2
電話:0796・32・4895(予約専用) チェックイン15時、同アウト10時
料金:1泊2食付きひとり6万1960円(松葉がに1杯と但馬牛のコース)~ 98室。
取材・文/関屋淳子 撮影/小林禎弘
※この記事は『サライ』2023年2月号より転載しました。