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ロウバイや黄スイセン……植物界の春一番のサインは“黄色”

寒さに背中を丸めながら、窓から冬の景色を眺める日々ではないでしょうか。

まだ気温は低く、春を感じるには程遠い気がしますが、街を歩けば、いろいろな春を見つけることができます。たとえば、自然界で春に向けて最初に咲く花色は黄色です。鳥や小さな虫たちが蜜を見つけやすい様に、黄色の花がまず咲き始めます。樹木であれば、小指の爪ほどの大きさで、梅の花のような形をしていて、蝋細工のようなツヤ感のある小さな花木(かぼく)。「ロウバイ」の花が最初に咲き始めます。

ロウバイは、うっすらですが良い香りが漂う花です。小さい花ながらも、道を歩いているとその良い香りが気になることがあります。茶道の経験がある方は、床の間に生けたロウバイの花をご存じかもしれません。

草丈低く、寒空の下立ち姿が美しいスイセンのテタテト。街の彩りに春を告げるかの様に咲き始めます。黒々とした土の色との対比が美しい、早い春を感じさせる花です。

草花ならミニスイセンで、花びらが黄色い「テタテト(テタテート)」が春を宣言する様に咲き始めます。草丈が高く、房で咲く日本スイセンは、芽がでている球根=「めでたい」ということで年末から流通出荷されますが、本来は開花時期がまだ先の植物。伊豆や南房総など温暖な地域で、水捌けと日当たりの良い斜面に群生しているのは、暖地だから。普通に庭などで開花するのは、花びらが黄色いミニスイセンが最初です。

続いて咲き始めるツバキの学名は、ブローチでよく見る「カメリア」

黄色の花色の植物に続いて咲き始めるのは、木と春という字を合わせた「ツバキ」の花。ツバキによく似ているサザンカは幼い頃に歌った童謡「たきび」の歌詞に出てくる通り、冬から咲き始めます。ツバキはその後からで、学名を「カメリア・ジャポニカ」と言います。ブローチなどでよく見るカメリアはこの花の形に由来するもので、「ジャポニカ」は、「日本原産」という意味です。ファッションでよく目にするカメリアは日本原産の「ツバキ」をモデルにして、世界に羽ばたいていったなんて……ちょっと素敵ですよね。花がボトっと落ちることから縁起が悪いと言われる反面、花の形が現代でもファッション界注目の花形とは……。なんだか嬉しくなってしまいます。

園芸が盛んだった江戸時代に、品種改良されたツバキの数々が現代で鑑賞できるのも、「日本原産種という土地柄なのかな?」と思います。『百椿図』や江戸時代に育種された花が描かれている書物など、江戸時代の図譜をみながらタイムスリップした気持ちで、街の生垣などを眺めるのも面白いです。なかなか関心が持てない植物でも、名前の由来がわかると少し近しい間柄になれる気がします。

「春、最初に咲く花」という意味を持つプリムラは春を彩る代表的存在

ツバキの花が咲き誇る頃、草花ではプリムラの仲間が多品種、園芸店を彩るようになります。世界中で愛され、品種改良が進み、今では育てやすい品種が揃っています。この「プリムラ」という名前には、ラテン語で「最初の」という意味が含まれています。つまり、プリムラは「春、最初に咲く花」という意味の名前を持つ植物です。

物言わぬ植物ですが、名前に込められた意味を知ると、さまざまなサインを私たちに投げかけてくれているのがわかります。早い春は、空気よりも地表面の温度が少し高いので、草丈の低い「プリムラ・ポリアンサ」や「プリムラ・ジュリアン」が出回ります。草姿は花弁が平らに開き、少し鼻ぺちゃな感じ。葉っぱが襟の様にくるりと花を包む様な姿が特徴です。ミニブーケの様な装いで、寄せ植えにしないでも1鉢から眺めて楽しむことができ、絵になる佇まいをしています。

「プリムラポリアンサ・ジーンズ」
ボタニカルアートの様な雰囲気があるジーンズ。素焼きの鉢に、
1鉢づつ植え替え高低差で見せ場を作ります。
「プリムラ・アラカルト」
花茎が立ち上がってから花が開花するニュータイプ。蕾を腐らせることなく、晩春まで長く開花することができるスグレモノ!

その後から見られるようになるのは、花茎がきゅっと伸びていく品種の「プリムラ・マラコイデス」(さくら草)、続いて桜の花が咲く頃になると大柄の「プリムラ・シネンシス」、そして、5月の連休の頃には、「プリムラ・オブコニカ」という室内花まで長く鑑賞することができます。

「プリムラ・マラコイデス・ウィンティ」
ピンク色が中心だったプリムラ・マラコイデスも、軽やかなグリーンやクリーム色などの花色が加わり、華やかさも重なって寄せ植えの幅が広がり、腕の見せ所の様な花合わせが楽しめます。
「プリムラ・マラコイデス・メロンシャワー」
香りがあるプリムラの品種です。真っ白な花色が置き場を華やかに彩る品種です。大小のペアにして飾ると、空間に広がりが出ます。
「プリムラ・シネンシス」(奥側草丈高いピンク色の花)
中国原産のさくら草を園芸品種に改良したシネンシス。葉っぱの表と裏で色が違うので、ちらっと裏地を覗かせている様な佇まい。寒さにも強く、明るい日陰でも栽培可能。大ぶりな姿にインパクトがある品種です。

【そのほか、さまざまな種類のプリムラ】

「プリムラ・アンティークマリアージュ」
アラカルトの様に花茎が立ち上がり、花色がニュアンスカラーの人気品種。コンパクトな草姿なのに丈夫な性質で、育てて眺めて心躍る品種。
「プリムラ・ベラリーナ」
一番新しい品種ではないでしょうか。今までの花形とは違う花形で、作った様な花形が面白い植物です。マウンド状に開花するので、ブーケの様な華やかさがあります。鉢カバーとの色合わせでも、雰囲気を楽しむことができます。

「春最初に咲く花」は、春で遊んでいるかの様に、姿と特性を変えながら、多様な品種で彩る植物です。花色も絵の具のパレットの様に多色で、花形もユニークなものや、造花のような形状のものまでさまざまです。

この春、最初にガーデニングをやってみようかな……という方には、「最初」が語源のプリムラで春を愛でてはいかがでしょうか。

植物名を知ると、ガーデニングの世界が広がる

何気なく口にする植物の名前ですが、由来がわかると急に距離が縮まったように感じ、「植物名はカタカナで覚えにくくて……」と思う方でも覚えやすいと思います。

先人たちが見た植物の目線を共有できるのも、園芸古今東西のような気持ちで楽しめます。

西洋と日本では、名前の付け方が違うことも多いです。そして学名で語源を知り、和名の漢字表記をみると、春を待ち侘びて冬を過ごした国の人と、四季折々に恵まれ、いつでも身近に植物があった国の人との目線の違いがよくわかります。

「最初の」を意味するプリムラ、「桜の花」の形に由来する和名の「さくら草」。西洋と東洋で異なる目線でついた植物名。育てずとも、植物名を知るという机上のガーデニングも、この春を待つ寒い時期ならではの時間の過ごし方です。

学名のラテン語表記は世界共通なので、海外の植物園や、海外の植物に関するWEBサイトを見ていても、なんの植物の話をしているかがわかり、世界中の植物園のネームプレートが読める面白さもあります。学名の中には、いろいろなヒントが隠れているので、読み方がわかると育て方のきっかけにつながるのでオススメです。

植物の名前からは先人たちが名前をつけた時のきっかけがわかり、四季のある国に生まれ育ったことで、植物の育つ時期が理解できることも。

4つの季節がある国に生まれたことの誇りを持って、たくさんの感謝と共に、植物のある暮らしの楽しさに気づける一年になったらいいなと思います。

おまけの話

福寿草は、春を告げる花です。鉢植えのまま栽培してもいいのですが、私の場合、根を洗い土を落としてフラワーベースに水をはって育てています。鉢物だと水管理や温度管理が難しいこともありますが、福寿草は開花期間が長い植物なので、植物のパフォーマンスを最大限楽しめる方法としてこのように栽培しています。

栽培すると、暖かな柔らかい日差しの室内に、春が訪れた華やかさを感じられます。
園芸は育てるだけではないのだよ……って、花たちに言われている様な気持ちになります。

撮影協力/花のワルツ

杉井 志織(すぎい・しおり)
1972年生まれ、埼玉県出身。建築の専門学校を卒業後、フラワースクールで植物の生態やアレンジメント、花屋運営のノウハウなどを学ぶ。現在は、ガーデニングや花壇ボランティア運営の指導、イベント装飾、執筆活動の他、NHK『趣味の園芸』へ出演する等、各メディアで幅広く活動中。上海花卉博覧会(10th CHINA FLOWER EXPO)海外招待ガーデナー・最優秀設計賞受賞。

杉井志織さんのインタビュー記事はこちら

 

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