時季になったら新幹線に乗り、バスを仕立てて、空路を辿り日本中から産地めがけて人が動く。わざわざ食べに行きたいほどの美味、それが「蟹」。今年はどこへ、出かけようか。
石川県が誇るブランド蟹を独自の調理法で蒸し上げる
加能ガニ(ズワイガニ)石川県加賀市
石川県はズワイガニの名産地として知られる。漁場である県西部の加賀沖は暖流と寒流が合流し、餌となる小魚やプランクトンが豊富な上、冬の海に鍛えられて肉付きの良い蟹が育つからだ。金沢港や加賀市の橋立港など県内で水揚げされた雄のうち、甲幅が9cmを超えるものを「加能ガニ」と呼び、その品質の証となる青いタグが付けられる。濃厚な甘みや爪先まで詰まった身には定評があり、昨年の初競りでは1匹500万円の最高値が付き話題となった。
開湯1300年を誇る加賀の古湯・山代温泉にある『界 加賀』では、加能ガニを中心とした選りすぐりのズワイガニが堪能できる。
生きた蟹をしめ縄で巻く
宿は、紅殻格子や釘を使わない加賀伝統の建築を随所に残しつつ、快適な客室棟を備える温泉旅館。
客室は「加賀伝統工芸の間」と銘打ち、加賀水引を施した障子飾りや加賀友禅のベッドライナーなどを配している。そして日本海の幸をふんだんに使った夕食が名物で、蟹の漁期には蟹尽くしのコースが好評を博す。
ひとり1.5杯分の蟹を使用した会席では、刺身や焼き蟹をはじめ、甲羅焼き、揚げ物、蟹すき鍋などが並ぶ。なかでもひときわ目を引くのが、主役の「活蟹のしめ縄蒸し」である。
「江戸時代の文献に、囲炉裏の灰の余熱を使って蟹を蒸す調理法があり、灰が付かないように蟹を縄で巻いたと伝えられています。これを参考に、塩水を含ませたしめ縄を活蟹に巻きつけて蒸し上げています。熱がじんわり入るので身がふっくらと仕上がり、塩味もまろやかになります」と料理長の金子雄太さんが説明する。
その自慢の蒸し蟹は、確かに身が縮まずしっとりとして、旨みが凝縮されている。豪快な演出もさることながら、深い味わいも理にかなっているようだ。さらに料理を彩る雅趣に富んだ九谷焼の器の数々も目を楽しませてくれる。
食から伝統文化まで、加賀の魅力を体感する、豪勢な滞在に心を躍らせたい。
界 加賀
石川県加賀市山代温泉18-47
電話:050・3134・8092(予約) チェックイン15時、同アウト12時
料金:1泊2食付きひとり3万5000円~ 48室。
取材・文/田喜知久美 撮影/宮地 工
※この記事は『サライ』2023年2月号より転載しました。