文/鈴木拓也
厚生労働省の調査によれば、60歳以上の常用労働者数(31人以上規模企業)は2009年には約216万人であったのが、2018年には約363万人に増え、シニア労働者の増加傾向は当面続くとみられている。
これは定年後の再雇用の要因もあるが、昔と比べて今のシニアは心身両面において若く、平均寿命も伸びて、まだまだ働けると考える人が増えているのも背景にあるだろう。
しかし、働く意欲はあっても、「シニアに役立つ求人サービスはほとんど存在しない」と指摘するのは、御年84歳にして現役の社長として活躍する郡山史郎さんだ。
郡山さんは、著書の『定年前後「これだけ」やればいい 人生後半40年に差がつく習慣』(青春出版社)の中で、あまたの求人サイトがありながら、シニアを対象としたものはわずかで、それも50代までという現状が立ちはだかっていると述べている。
とはいえ、郡山さんの論調は、「定年後の就職は諦めよ」ではなく、「60代で楽隠居は早すぎる。定年後も仕事を続けるのがこれからの時代だ」と前向きなものだ。そこで、提示されるのが、シニアが就職に成功するための「10の習慣」。これらの習慣は、満足できる仕事を早期に見つけるための処方箋。還暦過ぎて就職がうまくいった人たちは、こうした習慣を身につけているというが、どのようなものなのだろうか? 参考までに、うち3つを紹介してみよう。
■「望む仕事はない」と頭を切り替える
定年後は、現役時代のキャリアの延長線上にある仕事に就くのは難しい、と郡山さんは説く。そうした転職の機会があるのは50歳くらいまで。報酬面も思い通りというわけにはいかない。
だからといって、自信を失う必要はない。「社会の役に立つ」という視点に立つことで、やりがいのある仕事はいくらでもあるという。
今まで長年勤めてきた業界以外では役に立たないということはない。「自分がやりたいことは何か」ではなく、「自分にできることは何か」と考え方を変えてみてはいかがだろう。海外事業を手がけてきて英語ができる人なら、英語の講師にもなれるはずだ。営業をやってきた人なら、接客はお手の物だろう。仕事で培ってきた能力だけでなく、音楽やスポーツ、書道、ガーデニングなど、趣味の能力を活かせる道もあるはずだ。(本書75pより)
一度、自身のこれまでの経験を棚卸ししてみると、案外できることの多さに気づくはずだ。
■シニアだからこそ、マナーを大切にする
郡山さんは、「シニアの就職活動といえども、就職活動であることには変わりない」と釘を刺す。身だしなみや言葉遣いなどをおろそかにできなのは、新卒の就活生と同じ。むしろ、「シニアだからこそ、より気をつけたほうがいいこともある」とも。
髪は短めに切っておき、服装は派手な色・デザインは避け、話し方においては聞き取りにくい口調・発音になっていないかチェックしておく。言うまでもなく、シニアの就職活動は競争率が高い。第一印象で損をしないよう、気を付けておきたい。
■介護はしない。自分も介護されない
50代の子どもが仕事を辞めて80代の親を介護することが社会問題化しているが、郡山さんの考えは「50歳でも80歳でも年齢に関係なく精力的に働いてほしい」だ。
もし、介護が必要になったら、グループホームのような施設の活用を考え、極力子どもの世話にならいように努める。それが介護疲れによる心中といった不幸を予防する手段ともなる。
それ以前の自衛策は、「健康を維持すること」が基本だと、郡山さんは力説する。
きちんと働くためには健康であることが必須なのだから、体のメンテナンスに気をつけるようになる。明日も元気に働くために、栄養のバランスのとれた食事をし、早寝早起きを励行する。体を清潔に保ち、病気の原因を寄せつけないようにする。そんな生活が身につけば自然と健康は維持できる。(本書102pより)
定年退職すると運動量も激減するので、努めて運動を心がけるようにとも、郡山さんはアドバイスする。もっとも、ジムに通って本格的に鍛錬するのではなく、外出時に駅1つ分歩く、エレベーターでなく階段を使うといったレベルで十分とのこと。
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シニアを迎えて働く理由は、人それぞれかもしれないが、社会人経験60年の郡山さんの結論は「人は自らを幸せにするために働くのだ」というもの。人生の前半は競争だったのが、共存へとシフトする。こうして、仕事への価値観の転換を余儀なくされるが、それは悲観すべきものではないという。就職活動も、就職後の仕事も楽しんでできるのが、シニアの特権だと気づける1冊だ。
【今日の定年後の人生に役立つ1冊】
『定年前後「これだけ」やればいい 人生後半40年に差がつく習慣』
http://www.seishun.co.jp/book/20822/
(郡山史郎著、本体950円+税、青春出版社)
文/鈴木拓也
老舗翻訳会社役員を退任後、フリーライター兼ボードゲーム制作者となる。趣味は散歩で、関西の神社仏閣を巡り歩いたり、南国の海辺をひたすら散策するなど、方々に出没している。