少子高齢化の進展により、高齢者が活躍する場は増えています。定年を迎えても、仕事から完全にリタイアする人は少数派となり、多くの人が再雇用や再就職などで仕事を続けています。定年後の仕事は会社員として働くことだけではありません。なかには定年後に自ら事業を始める人もいます。

起業して一国一城の主となることが夢だったという人もいるでしょう。ただし、起業には一定のリスクがあることは否めません。今回は、定年後の起業について人事・労務コンサルタントとして、「働く人を支援する社労士」の小田啓子が解説していきます。

目次
定年後の起業という選択肢
定年後に起業する例と主な職種
定年後に起業するメリット・デメリット
まとめ

定年後の起業という選択肢

人生100年時代となり、いわゆる「老後」は長くなりました。長い老後を考えると、定年後働かなくても生活に十分な余裕があるという人は、ごく一部だと思います。厚生労働省が公開している令和5年の『高年齢者雇用状況報告書』によると、定年を60歳としている企業の割合はまだ6割を超えています。今の60歳はほとんどの場合、健康で体力もありますから、定年後も仕事を続けたいと考える人は多いでしょう。

現在高年齢者雇用安定法により、希望者全員の65歳までの雇用確保は企業の義務となっており、さらに70歳までの就業も努力義務として奨励されています。そこで、多くの人が再雇用などの継続雇用制度を利用して会社で働き続ける道を選んでいます。60歳定年企業では、再雇用を選択する人の割合は8割以上に達しています。もちろん定年後の仕事は、同じ会社で働くことだけではありません。

転職か起業か?

別の会社に転職するという選択肢もあります。転職は今までの会社から離れたい、新しい職場で働きたいという人には良い選択です。ただし、現実問題として定年後に再就職先を探すのは容易ではありません。よほどスキルの高い人でない限り、条件面でも多くは望めないのが現状です。

もうひとつの選択肢は、自分で事業を開始することです。定年前から起業を考えていたという人は、少なからずいるでしょう。経理や人事などの専門分野に精通している人、ITスキルやものづくりの技術を持っている人などは、独立して仕事をする道は開けやすいと言えます。実際、定年後にフリーランスとして活躍している人、会社を設立して成功している人もいます。

定年後に起業する例と主な職種

定年後に起業する人の職種や働き方は、様々です。これを定年前の会社員人生とのつながりで見ると、今までの仕事の経験を活かして起業する人と、全く新しい世界に踏み出す人に分かれます。両者それぞれの起業例を見てみましょう。

会社員時代の知見を活かす起業は?

定年後の起業としてよくあるのは、専門的な知識やスキルを活かして仕事を始めるケースです。例えば、WEBデザイナーや編集・著述業、教育や商品開発のコンサルタントなど。技術者や職人として独立して仕事を受託する人もいます。これらの仕事は個人でもできるうえ、会社員時代の人脈を活かせるので、比較的起業しやすいと言えるでしょう。

事業としてもう少し大きくやりたいという人は、会社を設立する方法もあります。また、現役時代に身につけた知識や経験をもとに資格を取得して起業する人もいます。たとえば、税理士、社会保険労務士、中小企業診断士などの士業などがそれにあたります。士業は年齢が高くても活躍する場がありますから、定年後に起業する人も少なくありません。自宅を事務所として開業することもできますから、初期投資も比較的少なくてすみます。

新しい世界に挑戦することも

定年後、会社員生活を離れて、定年前とは全く異なる仕事を始める人もいます。例えば、趣味の物品を扱うショップの経営や喫茶店・居酒屋を開店するなど。外国人向けの民泊施設などを開業する人もいます。会社員時代の仕事とは無関係の起業をする人は、定年よりかなり前から計画を立ててきたという人がほとんどです。

これらの事業を実際に始めるには、ある程度のまとまった資金が必要ですから、十分な準備と家族の協力が不可欠になります。

定年後に起業するメリット・デメリット

定年後に起業することは、メリットもデメリットもあります。定年後の起業は、すべてが成功するわけではありません。失敗例も数多くあります。定年後、起業するメリット・デメリットを、それぞれ見ていくことにしましょう。

メリット

メリットの一つは、会社員時代に培った知識・スキルを活かせることです。定年まで勤め上げたことで、手にした高い経験値と豊富な人脈は、起業するための大きな武器になります。

二つ目のメリットは、資金的な余裕があることです。定年ともなると、子どもたちも独立して家計に比較的余裕がある人が多くなります。退職金もありますので、起業のための資金は用意しやすいと言えます。三つ目は自分で選んだ仕事なので、モチベーションが保ちやすいことです。定年もないので心おきなく仕事ができるうえ、自分のペースで働けるので時間的余裕もできます。

デメリット

もちろんデメリットもあります。デメリットの一つ目は、やはり資金面です。長い老後に備えるには、生活費の確保が重要です。起業のために大きな投資をしてしまうと、家計の危機を迎えかねません。二つ目は、会社の肩書がなくなることのマイナス面です。順風満帆の会社員生活を送ってきた人も、定年退職するとただの人です。

起業後顧客になってくれると思っていた人が、会社を退職すると離れていったという例も少なくありません。これらのデメリットを克服するためには、自分自身を客観的に見る目が必要です。初期投資はなるべく低く抑え、国や自治体の補助金なども利用できるものは利用しましょう。怪しいセミナーなどの勧誘には乗らず、信頼できる人に相談するなどして堅実な計画を立てることが重要です。

事業開始後の見通しについても十分に調査し、起業の意思は家族には早めに伝えておきましょう。

まとめ

定年後の働き方は人それぞれです。会社員生活から離れ、自分の手で第二の仕事人生を切り開くことも一つの選択肢でしょう。ただし、定年後に事業を始めたがうまくいかなかったという人も少なくありません。定年後の起業を成功させるポイントは、健康に留意すること、そして自分の実力を冷静に判断することです。

起業して、「こんなはずじゃなかった」と後悔しないためには、家族や周囲の人の意見にも耳を傾けて確実な準備をすることが大切です。

●執筆/小田 啓子(おだ けいこ)

社会保険労務士。
大学卒業後、外食チェーン本部総務部および建設コンサルタント企業の管理部を経て、2022年に「小田社会保険労務士事務所」を開業。現在人事・労務コンサルタントとして企業のサポートをする傍ら、「年金とライフプランの相談」や「ハラスメント研修」などを実施し、「働く人を支援する社労士」として活動中。趣味は、美術鑑賞。

●構成/京都メディアライン・https://kyotomedialine.com

 

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