文/印南敦史

「定年進学」とは、あまり聞きなれない言葉である。それもそのはず。なぜならこれは、『定年進学のすすめ―第二の人生を充実させる大学利用法』(花伝社)の著者、花岡正樹氏による造語なのだ。

そこには、定年後に大学で学んでみようというメッセージが込められているという。

とはいえ、そんな花岡氏は1981年生まれである。本書が発行された2010年には20代後半だったわけで、定年進学を語るには若すぎるようにも思える。それは本人も認めているが、にもかかわらず書籍を書こうと思ったことには、2つの理由があるのだそうだ。

大学は第二の人生のスタートを切るために最適

「一つは、うまく使えば大学ほど、第二の人生のスタートを切るのに役立つ場所はない、と考えているからです。もう一つは、あまりにも身近にいすぎて気づいていなかった、ある定年退職者の存在です。彼を通じて、仕事を辞めても人生は終わりじゃない。人生をもっともっと楽しんでほしい。勝手ながら、そんなことを思うようになったからです。」(本書「はじめに」より引用)

察しがつくだろうが、この「ある定年退職者」とは著者の父親のこと。50代半ばで大手電機メーカーを早期退職した父親は、その後しばらく続けていたアルバイトを辞めてからは、家でゴロゴロしているのだとか。その姿を見るにつけ、さまざまな思いが頭に浮かんできたというのである。

多くの人は、“なにもしていない定年退職者”を見るにつけ「長すぎる退職後の人生をただ浪費しているだけではもったいない」と感じるのではないだろうか? 著者も、そのひとりだったということだ。ましてやそれが実の父親であれば、なおさら複雑な思いが絡みついてきても無理はない。

けれども現実的に、「やりたいことがなにもない」という人が少なくないということもまた事実なのだ。だとすれば、彼らを動かすためにはどうすればいいのか? そんな想いの先に、大学進学という選択肢を思いついたというわけだ。

第一章では、実際に定年進学をした8人を取材したうえで、各人が大学をどのように利用したかが細かく具体的に解説されている。

注目に値するのは、その道筋を漫然と紹介するだけではなく、「資格取得」「ボランティア」「生きがい」「趣味」「語学」「研究」「文章力」「ビジネス」「教養」と、テーマごとに異なる8人8様の利用法が確認できる点だ。

しかも一冊のうちの大半、およそ130ページ近くが第一章に費やされている。実践的な部分に重きが置かれているというわけで、読者はそのなかから、より自分自身に近いスタイルを見つけ出すことが可能なのだ。

定年進学の基礎知識が豊富

そして第二章では、決して無視することのできない重要な諸問題に踏み込む。お金の問題、入試制度、受験のポイント、大学院についてなど、定年進学を意識するにあたって覚えておきたい基礎知識が紹介されるのである。

さらには、通信制大学についても解説している点にも注目したい。「大学進学はしたいが、なんらかの事情から通学が難しい」という人は少なくないだろう。そのため、わずか3ページといえども、この項目には相応の意味があるといえるのである。

同じように、通常の在学期間よりも長く在学しても学費を安く抑えられる「長期履修学生制度」、夜間部の発展系に出会える「昼夜開講制」、入学前にお試しで授業を受けられる「科目等履修生制度」「聴講生制度」、インターネットを通じて授業の雰囲気や内容を知ることができる「オープンコースウェア(OCW)」など、学びのためのさまざまな手段を紹介している点も重要である。

そんな本書の最大の意義は、「定年進学には惹かれる部分があるものの、なかなか足を踏み出すことができない」という人に対し、「こういう手段、こういう方向性もあるんですよ」と提示している点にある。

現実的に考えると「やはり無理そうだな」と諦めざるを得ないということもあるだろう。しかし、決して道はひとつだけではなく、望みや目的、事情などに対応した、複数の道筋があることを教えてくれるのである。

本書を参考に、久しぶりに大学で学生に戻ってみるのも悪くなさそうだ。

【今回の定年本】
『定年進学のすすめ 第二の人生を充実させる大学利用法
(花岡正樹著、花伝社)

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文/印南敦史
作家、書評家、編集者。株式会社アンビエンス代表取締役。1962年東京生まれ。音楽雑誌の編集長を経て独立。複数のウェブ媒体で書評欄を担当。雑誌「ダ・ヴィンチ」の連載「七人のブックウォッチャー」にも参加。著書に『遅読家のための読書術』(ダイヤモンド社)『プロ書評家が教える 伝わる文章を書く技術』(KADOKAWA)などがある。


 

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