人生100年時代となり、定年後の人生も長くなりました。少子高齢化の進展により、高齢者が活躍するための法改正が次々と施行され、定年後も働く高齢者は増えています。定年後の生活設計をどうするかというのは大きな問題です。再雇用制度などを利用して同じ会社で働く、転職・起業するなど選択肢は様々です。   

中には、定年という節目を迎えて、郷里に戻って暮らしたいと考える人もいます。ただし、定年後のUターンは、理想通りとはいかないのが現実です。今回は「定年後のUターン」について人事・労務コンサルタントとして「働く人を支援する社労士」の小田啓子が解説します。

目次
定年退職後、Uターンする場合にかかる費用
国や自治体の支援制度は利用できる?
Uターン後の仕事の選択肢
まとめ

定年退職後、Uターンする場合にかかる費用

定年後のUターンとは、どのようなものでしょうか? 学生などが就学・就職のために故郷を出て、地元とは異なる土地に移住することを一般にIターンと呼んでいます。一方でUターンとは、故郷を出て移住した人が再び元の地方に戻ってくることです。定年後のUターンは、長い会社員生活を経てから故郷に戻ることになります。

故郷を離れ、都会で仕事を続けていた人の中には、定年を機に地元に帰る選択をする人は一定数います。都会育ちでありながら地方で働いていた人も、定年後再び都会に戻るケースも見られます。Uターンを考えるきっかけは、地元の両親が高齢になったことや、定年で老後の生活環境を考えるようになったことが大きいようです。

両親に孝行したいという思いに加えて、老後は慣れ親しんだ土地で落ち着いて暮らしたいと考える人は少なくありません。こうした傾向は、特に地方出身の男性に多く見られます。

Uターンする際の注意点

ただし、Uターンを考えても実行に移すことは簡単ではありません。まず最も大切なのは、家族の意向です。次に家族の賛同を得られたとしても、住むところや仕事をどうするかという問題が出てきます。実家に住むという選択肢もありますが、夫婦で移住するとなると家の改修や新築が必要になる場合もあるでしょう。引越費用もかかりますし、現在の自宅を処分することも考えなければなりません。

自宅を売却する場合は、3%程度の不動産仲介手数料が必要になります。さらに、定年退職後は収入がなくなりますから、生活費確保の問題も出てきます。総務省が公開した令和4年の『家計調査年報』によると、定年後の夫婦の平均的な生活費はおよそ26万8千円というデータもあります。Uターンを考えている人は、生活費を含め堅実な資金計画を立てることが重要です。

定年前から十分に準備をして、貯蓄・退職金・自宅の売却金などは浪費せず、その後の出費に備えられるようにしておきましょう。

国や自治体の支援制度は利用できる?

Uターンのための費用に、国や自治体の公的な支援制度を利用するということも良い案です。多くの県や市町村で移住者を受け入れるための補助金や優遇制度を設けています。金銭の支給のほか、空き家の無料貸与や住宅が確保できるよう配慮してくれることもあります。自分がUターンする予定の自治体のホームページなどを検索して、利用できる制度を確認しておきましょう。

自治体によっては、若い人の移住を促進するために優遇制度に年齢などの条件を設けている場合があるので、注意が必要です。故郷に住んでいる家族や友人などの人脈を利用して、情報を得ておくことも大切です。

転出する側の自治体の支援制度

また、転出する側の自治体のほうの支援制度もあります。例えば、東京都は、東京圏外に移住、転職する人を支援する補助金制度を用意していますので、利用の可否なども調べておきましょう。

地元に戻るといっても、離れてからの期間が長いと大幅に環境が変わっていることも少なくありません。帰省した際などに、地域の様子や交通インフラの整備状況なども確認しておくことをおすすめします。

Uターン後の仕事の選択肢

Uターンが決まり、定年退職後地元に戻ったとします。その後は、移り住んだ土地での新たな生活が始まります。よほど実家に財産がある人でない限り、まったく仕事をしないで生活できる人はほとんどいません。そこで多くの人が地元で仕事に就くことになりますが、よくあるのが農業、漁業などの地元の産業に携わるケースです。

実家が農家や漁師の場合、選択しやすい仕事ではありますが、長い間会社勤めをしてきた人がまったく異なる仕事に取り組むのは容易ではありません。実家が地元で店舗や会社などの事業を営んでいる場合、家業を引き継ぐケースもあります。これもまた、地元の慣習や地域のコミュニティに馴染んでいくための難しさがあるでしょう。

このように、両親や親族がやっていた仕事を夫婦で引き継ぐようなケースは、家族、特に配偶者の協力が不可欠です。Uターンが、夫婦のトラブルにつながってしまうようでは元も子もありません。事前に何度も足を運び、地域の事情を家族にもよく理解してもらうようにしましょう。

地元企業に就職する場合

家業とは関係なく、地元の企業に就職するという選択肢もあります。この場合も定年前から情報を収集し、どのような会社でどんな働き方をするのか、計画を立てておくことが大切です。定年前の仕事と同じような感覚で考えていたのでは、長続きする仕事には出会えません。

定年後の再就職でもありますし、都会と地方では賃金の水準も違います。その地方の給与相場や、業務の内容などを理解したうえで、現実をふまえて仕事を選ぶ必要があります。

役所などでも、定年後のシニアを採用している仕事がありますから、公的な機関の募集などにも目を配っておきましょう。注意しなければならないのは、周囲とのコミュニケーションです。定年前の地位や、都会での経験を鼻にかけるような態度では、地元の人たちと溝ができてしまいます。新たな職場では、謙虚な気持ちを忘れずに新人のつもりで仕事に取り組むようにしましょう。

まとめ

「夢に見た田舎暮らし」などの言葉で、定年後のUターンを薦める広告などはよく目にします。しかしながら、定年後に地元に戻って生活することは思うほど簡単ではありません。長い老後に備える資金計画が何より重要ですし、高齢になった時のことを考えて、交通機関や医療機関の状況なども確認しておく必要があります。

定年後のUターンは、適応力が高く前向きに人生を楽しめる人が向いています。家族ともよく話し合ったうえで、Uターン後も充実した生活ができるように準備しましょう。

●執筆/小田 啓子(おだ けいこ)

社会保険労務士。
大学卒業後、外食チェーン本部総務部および建設コンサルタント企業の管理部を経て、2022年に「小田社会保険労務士事務所」を開業。現在人事・労務コンサルタントとして企業のサポートをする傍ら、「年金とライフプランの相談」や「ハラスメント研修」などを実施し、「働く人を支援する社労士」として活動中。趣味は、美術鑑賞。

●構成/京都メディアライン・https://kyotomedialine.com

 

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