文/中村康宏

近年、ダイエットや糖尿病の治療法として「ケトジェニック・ダイエット」が注目を浴びています。一般的に「糖質制限ダイエット」と呼ばれるこの方法は、医学的にも効果があると証明されています。そこで、ケトジェニック・ダイエットの効果と注意するポイントを解説します。

ケトジェニック・ダイエットとは

ケトジェニック・ダイエットは、糖質を制限し、その代替エネルギーとして脂質をたくさん摂取する食事法のことを意味します(*1)

通常の食事では、炭水化物などの糖質をエネルギーとしています。ケトジェニック・ダイエットでは、体内でエネルギーとなる炭水化物を減らし、代わりに脂肪などから「ケトン体」という物質を生成し、エネルギー源として使用する方法です。「ケトン体を生み出す食事」という意味で「ケトジェニック・ダイエット」という名前がついています。絶食時と類似したエネルギー産生メカニズムのため「擬似絶食」とも呼ばれています(*2)

ケトジェニック・ダイエットは2500年以上前から存在した!

近年、ダイエットや糖尿病の治療法として注目を浴びているケトジェニック・ダイエットですが、実はその歴史は紀元前にまで遡ります。紀元前500年頃の古代ギリシャや古代インドにはすでに「てんかん」の治療食として一般的に知られていました。

その有効性については「ケトン指数」を計算する「ウッドヤッドの式」で有名なウッドヤッド博士によって1921年に明らかにされました(*3)

「ケトジェニック・ダイエット」ってどういうもの?

ケトジェニック・ダイエットは、目安となる「ケトン指数」を用いて食事を組み立てます。

「ケトン指数」で計算した理想的な食事をカロリーで換算すると8%がタンパク質由来、2%が炭水化物由来、90%が脂質由来となりケトジェニック・ダイエットが脂質に富んだ食事であることがわかります(*4)

ケトジェニック・ダイエットの4つの減量効果

ケトジェニック・ダイエットに減量効果があることは多くの研究から明白となっていますが、そのメカニズムについてはいまだ詳細に解明されていません。その中で、ケトジェニック・ダイエットによるダイエット効果は以下の4つのメカニズムによると考えられています(*5)

1.多いタンパク質摂取量、グレリンなどによるホルモン調整機能、ケトン体自体による「食欲減退効果」
2.脂肪酸合成を抑制し,脂肪分解を促進する
3.エネルギー代謝における脂肪使用比率を上げ、脂肪燃焼を促進する
4.高タンパク食による基礎体温上昇効果

ケトジェニック・ダイエットはがんや認知症にも有効!?

てんかんや糖尿病治療にケトジェニック・ダイエットが用いられることは述べましたが、他にアルツハイマー病やパーキンソン病、心血管疾患、がん、ニキビの治療方法としての効果が期待されています(*2)。ケトジェニック・ダイエットは活性酸素の産生が増大するため、酸化ストレスを介してがん細胞の増殖を抑制する可能性が示されています(*6)。また、アルツハイマー病の脳細胞は、糖質をうまく利用できないという特徴がありますが、ケトン体なら代謝できるため、一時的に認知症が改善すると考えられています。

ケトジェニック・ダイエットは危険!? 気になる副作用

ケトジェニック・ダイエットが糖尿病や肥満の改善に有効だという認識が高まっている一方で、それを否定する論文も多く存在します。

それは、人間とネズミを使った実験で一貫したデータが得られない、長期的なデータがない、などまだ統一的な見解がなされていないのが現状だからです。

確実に言えることは、ケトジェニック・ダイエットをやめる時、リバウンドが起こりやすいということです。飢餓に近い状態までカラダを追い詰めるので、普通の食事に急に戻すと、少ないカロリーであっても全てのエネルギーをカラダに蓄えてしまうからです。

その他、以下に代表的な副作用を紹介します(*3)

体のpH(酸塩基バランス)が崩れる:呼吸機能の低下、意識の低下、脱水症状
カルシウムバランスが崩れる:骨のミネラル減少、腎臓結石、尿路結石
栄養素・微量元素の低下:偏った食品摂取による栄養不足やセレニウム、銅、亜鉛などの微量ミネラル欠乏などが報告されています。
筋肉の減少:脂肪だけでなく、筋肉も分解されてしまいます。実際、ケトジェニック・ダイエットをしていると、体内のタンパク質(つまり筋肉)から400〜600 kcal/日のエネルギーを作り出していることがわかっています。
コレステロールの増加:長期的にLDLコレステロール値が増加し心疾患のリスクになる可能性があります。
肝障害・脂肪肝・脂肪肝炎:脂肪を燃焼しているにも関わらず、肝臓に脂肪がたまるという不思議な現象が起こります。これは飢餓状態にも見られ、カラダがなんとかエネルギーを蓄えようとするカラダの防御反応です(*7)
酸化ストレス増加:ケトジェニック・ダイエットでは体内の酸化ストレスが増加するという報告があります(*6)

ケトジェニック・ダイエットを実践するときのポイント

ケトジェニック・ダイエットは栄養学的にかなり偏った食事であり、上記のような副作用もあるため、実践するときはケトジェニック・ダイエットの知識・経験の豊富な医師の指導のもとで行う必要があります。

また、一定期間ケトジェニック・ダイエットを維持するのはそれなりの努力と忍耐を要します。明確な目標、期間、方法を設定することをお勧めします。(※筆者もケトジェニック・ダイエットを実践してみたが、グルコースが枯渇する12時間後からは集中力が途切れがちになる、起床時に倦怠感がある、食事バリエーションの少なさに困る、運動時に力が入らない、食費がかさむ、など継続する上での大変さを経験した。運動時のパフォーマンスを優先し4日で終了し、残念ながら体重減少の効果をそれほど実感できなかった)。

米クリーブランド・クリニックは、

「ソーセージやベーコンなどの生成肉・高脂肪乳製品・トランス脂肪酸(悪い脂肪分)を多く含んだ食品などでケトジェニック・ダイエットを行うのは簡単だが、このような健康的でないやり方で行うのは“危険”」

と警鐘を鳴らしています。代わりに、良質な脂肪であるオリーブオイル、アボガドオイル、ココナッツオイルなどを使うことを推奨しています(*4)

以上、ケトジェニック・ダイエットの効果と注意するポイントについて解説しました。ケトジェニック・ダイエットは、細胞の代謝を変化させることで、体重減少などさまざまな効果を及ぼすものと考えられており、その効果的な利用方法の確立が期待されています。実践する際は正しく・安全に行うことを第一に考えましょう。

【参考文献】
1.Nutrients 2017 9: 517
2.Curr Opin Neurol 2012: 25; 
173-8
3.化学と生物 2016: 54; 650-6
4.Cleveland Clinic: Health Essential
5.Int J Environ Res Public Health 2014; 11: 2092–107
6.Redox Biol. 2014; 2: 963–970
7.J Gastroenterol Hepatol 1997; 12: 398-403


文/中村康宏
医師。虎の門中村康宏クリニック院長。アメリカ公衆衛生学修士。関西医科大学卒業後、虎の門病院で勤務。予防の必要性を痛感し、アメリカ・ニューヨークへ留学。予防サービスが充実したクリニック等での研修を通して予防医療の最前線を学ぶ。また、米大学院で予防医療の研究に従事。同公衆衛生修士課程修了。帰国後、日本初のアメリカ抗加齢学会施設認定を受けた「虎の門中村康宏クリニック」にて院長。未病治療・健康増進のための医療を提供している。

 

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