文/中村康宏

老化やガンなどの病気には、実は活性酸素による「酸化」という共通したメカニズムが関与していることがわかっています。さらに「アンチエイジング(抗老化)」の広まりから、この酸化を抑制する「抗酸化食品」への期待が高まっています。

そこで今回は、この酸化がカラダに及ぼす悪影響と、抗酸化食品の正しい摂り方について解説いたしましょう。

■「酸化」が及ぼす深刻な影響とは

体に取り込まれた酸素の一部は、体内で「活性酸素」へと変化します。基本的にこの活性酸素は、感染防御や栄養代謝など、人間の生命維持に必要不可欠なものです。例えば、食物に付着している細菌を活性酸素が殺菌するために、人間が安全に食事を摂取することができるのです(※2)。

しかしその一方で、活性酸素は化学的に不安定な物質であるため、細胞の脂質、タンパク質、DNAや糖質などと反応して、自分自身の細胞にダメージを与えることがあるのです。これが活性酸素による「酸化」です。

一方、人間には活性酸素の害を防御する抗酸化作用がそなわっています。もともと体に備わっている抗酸化物質として、抗酸化酵素(カタラーゼやグルタチオンペルオキシダーゼなど)、タンパク質(アルブミンやグロブリン) 、尿酸などが挙げられます。

また、体の外から食品として取り入れる抗酸化物質も、抗酸化システムにおいては重要です。例えば、ビタミンCやビタミンEなどの抗酸化ビタミンがあり、これらの物質は活性酸素を直接消す能力を持っています(※4)

この、活性酸素がヒトのカラダを酸化させる「酸化力」が、ヒトの体に備わっている「抗酸化力」を上回って、両者のバランスが崩れると、「酸化ストレス」が生じると考えられています(※1)。この「酸化ストレス」は、血管や細胞に大きなダメージを与えることが知られています。しかし自覚症状がほとんどないため、気づかないうちに進行するのです。

この「酸化ストレス」が体に及ぼす悪影響は多岐にわたり、高血圧、炎症、動脈硬化、シワやたるみなどの老化現象、がん、アルツハイマー病などの脳神経疾患、ぜんそくなどの呼吸器疾患、白内障、心疾患、脂肪肝などの消化器疾患などなど、様々な病気の発生や増悪に中心的な役割を果たしていると考えられています。

酸化ストレスは、「酸化力」が「抗酸化力」を上回った状態を言う。タバコや紫外線などの生活環境因子が酸化ストレスを増悪させる。

酸化ストレスは、肥満、過度の運動、ストレス、喫煙、紫外線、放射線、大気汚染などで引き起こされ、細胞に変化を与えることがわかっています。例えば、紫外線を浴びると皮膚に酸化ストレスが生じ、皮膚のコラーゲン分解酵素が活性化されます。すると、これがコラーゲンを分解し、シワやタルミとなるのです(※5)。

それゆえ、酸化ストレスを引き起こす原因への暴露を極力減らすことが、様々な病気の予防やアンチエイジングの第一歩となるのです。

■酸化ストレスを防ぐ「抗酸化食品」摂取のポイントとは

例えば緑茶やブルーベリーなどに含まれるポリフェノールには抗酸化作用があり、酸化による障害を最小限にすることが広く知られています。特に「コエンザイムQ10」には強力な抗酸化作用があり、肌の若返り効果が認められるとの報告から、昨今のアンチエイジングブームの火付け役となりました(※6)。

一方で、抗酸化食品のメリットについては賛否両論があり、抗酸化サプリメントの摂取が有益ではないという研究結果もみられます。例えば16万人に及ぶサプリメントの健康への影響を調べた研究では、抗酸化物質として有名なビタミンA、ビタミンEを摂取すると、かえって死亡率の上昇がしたという報告があります(※1)。

そう聞くと、果たして本当に抗酸化食品を摂取すべきか否か、混乱される方もいらっしゃるでしょう。そこで最後に、予防医学の観点から、筆者の見解を述べておきます。

最初にお話ししたとおり、酸化ストレスは活性酸素と抗酸化力とのバランスが崩れることから生じるものであり、このバランスがとれた状態を維持することが、健康管理の上では肝心になります。だからこそ、抗酸化成分を摂取する際は、この“バランス”を調整する役割があるのです。

抗酸化食品には、酸化物質を直接抑制するだけでなく、体内の抗酸化力を強めることによる間接的な抗酸化作用も見込めます。また、そもそも食品の機能は薬剤と異なり多岐にわたるため、食品の摂取によって得られる恩恵も一様ではありません。それゆえに、ヒトにおける食品機能成分の有効性を科学的に立証することは、そもそも困難なのです。

重要なのは、「酸化」を防ぐことではなく、「酸化」と「抗酸化」のバランスを保つことです。そして「酸化ストレス」が持続的に起きないように、たんぱく質を十分に摂取することに加え、微量元素やビタミン、ポリフェノールなどの抗酸化物質を日々積極的に摂取することが、酸化ストレスの制御に基づく病気の予防という観点で重要なのです(※4)。

【参考文献】
※1 Bjelakovic G, et al. JAMA 2007; 297: 842‒57.
※2 井上正康. 学術の動向 2012
※3 Marinho HS, et al. Redox Biol 2014: 2; 535‒62.
※4 田中芳明, 他. 本静脈経腸栄養学会雑誌 : 2016; 3: 3-12.
※5 Minami Y, et al. J Nutr Biochem 2009: 30; 389‒98.
※6 Schaffer S, et al. Genes Nutr 2012: 7; 99‒109.

文/中村康宏
関西医科大学卒業。虎の門病院で勤務後New York University、St. John’s Universityへ留学。同公衆衛生修士課程(MPH:予防医学専攻)にて修学。同時にNORC New Yorkにて家庭医療、St. John’s Universityにて予防医学研究に従事。

 

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