文/藤本一路(酒販店『白菊屋』店長)
料理とお酒の新しい出逢い、その幸せなマリアージュを求めて――。月1回のこの連載では、旬の食材を使った家庭で作れる季節料理を「お題料理」として、私・藤本一路が日本酒・焼酎・ワインなど幅広い選択肢のなかから、これはと思う美酒と合わせて料理との相性を探ります。
料理のご紹介は、大阪・堂島にある割烹『堂島雪花菜(どうじまきらず)』のご主人、間瀬達郎さんです。いわば「旬の一皿×異酒」格闘技編という試みですが、さて、第3回目はどんなご報告ができるでしょうか。
7月のお題料理は「鱧の酢の物」です。
鱧(はも)といえば関西。とくに京都と大阪では夏場に欠かせない魚です。
産地としては瀬戸内の淡路島近海や和歌山沿岸が有名です。かつては瀬戸内海の魚は船で大阪に入り、そこから陸路で天王山を越えて京都へ輸送されました。京都は海が遠く新鮮な魚介を手に入れるのは難しかったわけですが、生命力の強い鱧は生かしたまま桶に入れて運ばれたのです。
鱧は皮膚呼吸ができるため、水がなくても丸一日程度は生きていけるのだそうです。「京都のハモは山で獲れる」という言い伝えがありますが、おそらく天王山越えの途中、桶から飛び出して逃げた鱧が山中で目撃されたことから生まれたのでしょう。つまり、それほど鱧の生命力は旺盛だという証明です。
さて、今回のお題料理「鱧の酢の物」の作り方を簡単にご紹介しましょう。
まず鱧を骨切りして70度のお湯で数秒湯掻きます。一般的な「鱧の落とし」のように、氷水には落とさずに水気を切ります。間瀬さんによれば、氷水で締めないことで、皮がやわらかく、より食べやすくなるとのこと。
三杯酢に鰹出汁(かつおだし)を足した土佐酢に、紫蘇の葉「ゆかり」を加え、さらにゼラチンを少し入れて、とろみをつけたものを上からかけます。
俗にいう“酢の物”という感じではありません。繊細な鱧の味わいを前面に出した料理です。
あしらいは「トマトのけんちん蒸し」。皮目に包丁を入れた青瓜を昆布〆したものと、海老と玉ねぎ、あおさ海苔を卵でとじて、くりぬいたトマトの中に詰めて蒸したものです。
少しばかり「鱧の子の自家製塩辛」も添えてあります。塩をして細切り昆布と鷹のツメを刻んで入れて、しばらく寝かせたもので、これは新鮮な鱧の子が手に入れば、家でも簡単につくることができるそうですよ。
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今回のお題料理「鱧の酢のもの」には、どんなお酒が合うでしょうか。私が選んでみたのは、次の3種のお酒です。
・日本酒「相模灘(さがみなだ) 特別純米・豊潤辛口オリガラミ生」
・ドイツワイン「ラッツェンベルガー リースリング・カビネット・ファインヘルプ」
・芋焼酎「富乃宝山(とみのほうざん)」の炭酸割り
それではまずは日本酒から。「相模灘 特別純米・豊潤辛口オリガラミ生」を合わせてみましょう。
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