文/藤本一路(酒販店『白菊屋』店長)

料理とお酒の新しい出逢い、その幸せなマリアージュを求めて――。月1回のこの連載では、旬の食材を使った家庭で作れる季節料理を「お題料理」として、私・藤本一路が日本酒・焼酎・ワインなど幅広い選択肢のなかから、これはと思う美酒と合わせて料理との相性を探ります。

料理のご紹介は、大阪・堂島にある割烹『堂島雪花菜(どうじまきらず)』のご主人、間瀬達郎さんです。いわば「旬の一皿×異酒」格闘技編という試みですが、さて、第5回目はどんなご報告ができるでしょうか。

9月のお題料理は「秋刀魚の竜田揚げ」です。

サンマは日本の秋を代表する庶民の味覚のひとつですが――その食の歴史は、さほど古いものではありません。庶民がサンマを食べだしたのは、江戸も中期頃からです。

あま塩のさんまといふ魚、明和(1764~72)頃迄は喰うもの多からず。しかるに安永改元(1772)頃、「安くて長きはさんまなり」と壁書きせしが、その頃より大いに流行出して、下々の者、好みて喰らう事と成りたり(『梅翁随筆』)

裕福な町人のなかにも、サンマを好んで食べる者が出てくるのは、寛政年間(1789~1801)になってから。それでも、武家の多くは下世話な魚とみなして、依然としてサンマを食べることはしなかったようです。

サンマ漁は江戸初期に紀州・熊野灘から始まっていますが、「さんま」の呼び名は、一説では大量祈願のための供物を意味する「祭魚(サイラ)」が語源といわれます。サンマの学名も「サイラ」です。

サンマと聞いて思い浮かぶのが、秋によく演じられる落語の『目黒のさんま』。です。家臣を従えて馬の遠乗りに出かけたお殿様が、目黒で下魚のサンマを初めて食べていたく感激。以来、その味忘れがたく、ひたすらサンマに恋焦がれる日々が続くのですが、さて――。

この『目黒のさんま』の噺にちなんで、東京・目黒区では毎年秋に盛大にサンマを振舞う「さんま祭」が開催されています。関西人には馴染みのないお祭りですが、その日はさぞかし焼き秋刀魚の良い匂いが町中に広がるんでしょうね。

漢字で「秋刀魚」と書くようになったのは明治の中頃からです。江戸時代は「三馬」の字をあてることも多かったのですが、栄養豊富なサンマは食べると、馬力がつくことを体験的に知っていたからに違いありません。

夏目漱石も『吾輩は猫である』のなかで“三馬”のあて字を使っています。

さて、今回のお題料理は「秋刀魚の龍田揚げ」です。まずはその作り方をご紹介しましょう。

サンマを開いてワタを取りだし、中骨と身を切り分けます。身は好みの大きさに切って、醤油8に対して酒2を加えた調味液に数分漬け込み、片栗粉をつけて揚げます。

このとき、あしらいとして無花果(イチジク)の黄身衣揚げ、松茸のおかき揚げ、ゴーヤやレンコンの薄切り、そしてサンマの中骨も揚げています。

最後に、サンマのワタをラップして蒸したものを裏漉しして、そこに少量の醤油と山椒を加えます。サンマの美味しさは、このワタの苦みがあってこそです。

料理人の間瀬達郎さんによれば、今回の「竜田揚げ」は、サンマがまだ出始めで脂が乗りきっていないことから選んだ調理法だそうです。「脂が乗ってくれば、揚げるより焼いたほうが美味しい。ワタも脂分が増して味も濃くなります」。

*  *  *

さて、この「秋刀魚の竜田揚げ」には、どんなお酒が合うでしょうか。私が選んでみたのは、次の三つのお酒です。

☆芋焼酎:宮崎「黒木本店」の『球(Q)』
☆ウィスキー:長野「マルス信州蒸留所」の『岩井トラディション』でつくる炭酸割のハイボール
☆日本酒:群馬「高井(株)」の『巌 純米吟醸生・雄町45 有恒』

では1本目の芋焼酎『球(Q)』から、合わせていってみましょう!

>>次のページへ続く。

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