日本全国に大小1500の酒蔵があるといわれています。しかも、ひとつの酒蔵で醸(かも)すお酒は種類がいくつもあるので、自分好みの銘柄に巡り会うのは至難のわざ。そこで、「美味しいお酒のある生活」を主題に、小さな感動と発見のあるお酒の飲み方を提案している大阪・高槻市の酒販店『白菊屋』店長・藤本一路さんに、各地の蔵元を訪ね歩いて出会った有名無名の日本酒の中から、季節に合ったおすすめの1本を選んでもらいました。
【今宵の一献】 長龍酒造『四季咲 半夏生』
聖徳太子にゆかりの奈良・斑鳩(いかるが)で7世紀頃に創建された世界遺産の名刹・法隆寺。そこから南へ約10㎞ほどの距離に、4~6世紀にかけて築かれた馬見古墳群(うまみこふんぐん)で有名な広陵町があります。町を流れる高田川沿いに立つのが「長龍(ちょうりょう)酒造」で、大正12年創業の銘醸蔵です。
長龍酒造は、昭和55年の全国新酒鑑評会において奈良県第一号の金賞受賞蔵になったのをはじめ、通算10回の金賞を受賞しています
社是として掲げているのは「昇道無窮極(しょうどうむきゅうきょく)」。酒造りをきわめる道は無限で終わりはない、という意味の言葉です。
ひと頃は「なるほどの酒・長龍」のキャッチフレーズで知られた準大手メーカーという位置づけでしたが、近年は徐々に方向を転換し、酒づくりも小仕込みへとシフト、より品質に特化した“地酒蔵”へと変化を遂げています。
長く南部杜氏(後述)の技術を受け継いできた蔵ですが、現在は新体制のなかで「杜氏」という呼称はあえて使わず、吉岡利明(よしおか・としあき)さんを製造の中心者として酒づくりが行なわれています。