霧積温泉『金湯館』|往年の名温泉地に唯一残った一軒宿【訪ねて行きたい鄙び温泉】

山中にたたずむ秘湯の宿『金湯館』

写真・文/石津祐介

「母さん、僕のあの帽子、どうしたんでせうね?」

昭和52年に公開された映画『人間の証明』に登場する有名なフレーズです。詩人・西条八十の詩で、この後には「ええ、夏、碓氷から霧積へゆくみちで、谷底へ落としたあの麦わら帽子ですよ」と続くのですが、ここに出てくる「霧積」というのが、群馬県安中市にある霧積温泉です。

元々、霧積温泉は賑やかな温泉地で、軽井沢が別荘地として開発される以前から避暑地として賑わっていました。ところが1910年に起こった山津波で壊滅的な打撃を受け、今は『金湯館』を残すのみとなりました。

『金湯館』は、伊藤博文、与謝野晶子、勝海舟などなど、名だたる人物が逗留した温泉宿。創業は明治17年で、もう100年以上の歴史ある温泉です。

『人間の証明』の原作が生まれた場所も、他ならぬこの宿でした。原作者の作家・森村誠一がここに宿泊した際、宿が用意した弁当の包み紙に西条八十による冒頭の詩が書かれており、それをモチーフに小説を書いたそうです。作品にも、この宿が舞台として登場します。

明治の創業以来、建て増しを繰り返してきた『金湯館』の建物には旧館と新館があり、明治の頃に建てられた旧館には、勝海舟が湯治で滞在した部屋や、伊藤博文が明治憲法を草案したという部屋も残されています。

昭和56年までは電気も通じていないランプの宿だったそうです。周囲には本当に何もなく、山の静寂に包まれています。

温泉の泉質は、カルシウム硫酸塩温泉(低張性弱アルカリ性温泉)。源泉の温度は38.9度。ぬる湯なので長湯がオススメです。湧出量は、毎分300Lの自然湧出と豊富。源泉掛け流しで、加水、加温、消毒なしという、正真正銘の名湯です。

入り口から温泉へとつながる廊下も趣がある

タイル張りの浴槽はレトロ感たっぷり。コップも置いてあり飲泉もできる。

上州の山中にある鄙びた一軒宿、霧積温泉『金湯館』。賑わいや便利さとは無縁の山間の温泉地ですが、自然に溶け込む歴史ある宿へ、ぬるめの名湯に浸かりに行ってみませんか。

行かれる際には、ぜひ映画『人間の証明』を見ていくことをオススメします。

【訪ねて行きたい鄙び温泉】
霧積温泉『金湯館(きんとうかん)』
住所:群馬県安中市松井田町坂本1928
電話:027-395-3851
交通:宿泊客はJR横川駅より送迎あり。車は上信越道松井田妙義インターより国道18号を経由し碓氷峠旧道へ。
http://www.kirizumikintokan.com/page-list.html

写真・文/石津祐介

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