■1本目:「相模灘 特別純米・豊潤辛口オリガラミ生」
最初に紹介するのは神奈川県相模原市にある久保田酒造の「相模灘」という日本酒です。
関東の地酒というと、関西人にはあまりピンとこないのが実情です。まして神奈川のように大都市圏をイメージさせる県のお酒はなおさらです。しかしながら「相模灘」を醸す久保田酒造は、神奈川県最北部の相模原市緑区という、面積の大半を山林が占める自然に恵まれた地域にあります。
小さな蔵ですが、いち早く搾り機とタンクのある部屋を丸ごとプレハブで囲って空調を効かせる等、酒質をあげるための設備投資は惜しまない蔵元です。
若い久保田兄弟が中心となり、ストイックな姿勢で酒造りに専心しています。
酒米は代表的な山田錦、雄町、美山錦の3種類を主体として、奇はてらわず、あくまで米の良さをシンプルに表現するという、酒づくりの王道を歩んでいます。
今回の「豊潤辛口オリガラミ生」の酒米には、美山錦を使っています。
控え目で爽やかな香り、シャープな口当たりに澱(おり)が絡むことで、やわらかくふくらみながら、スッキリと切れる、フレッシュな味わいのお酒です。食中酒として、この時期に非常に良いと思います。
* * *
さて、今回のお題料理「鱧の酢のもの」と合わせてみましょう。
結果は、紛うことなく、合格です。日本酒と魚料理の相性にケチをつける気にはなりません。
強いて気になった点を挙げれば、「鱧の酢のもの」の味よりも酒の旨みが前に出てきたところでしょうか。お互いを引き立てるというイメージよりは、繊細な鱧の横で「相模灘」が主張しています。おそらくは、鱧の淡白な味わいを活かすために上から掛けられた土佐酢が思った以上に優しかったせいでしょうか。
もう少し酢が効いた感じだと、さらに寄り添えていたように思います。
「鱧の子の塩辛」には少しお酒のほうが負けましたが、もうひとつ「トマトのけんちん蒸し」には相性はぴったり、でした。
同じ酢の物でも、関西でいう「鰻ざく」はご存知でしょうか。鰻のかば焼きの細切りと刻んだ胡瓜の塩もみを三杯酢で和えたものですが、そちらのほうが、今回の日本酒「相模灘」により合うかも知れないですね。
毎度のことながら、実際に合わせてみると、面白い発見があるものです。
次は白ワイン。ドイツの中辛口のリースリング「ラッツェンベルガー バッハラッハー・リースリング カビネット・ファインヘルプ2015」を合わせてみましょう。