海外の寿司職人の年収は、1千万円以上
街に外国人観光客をよく見るようになった。日本政府観光局(JNTO)は、2023年4月の訪日外国人旅行者数(推計値)を約195万人と発表。コロナ前の7割まで回復しているという。
街には外国人観光客が急増し、銀座、築地、浅草、新宿、渋谷……長蛇の列を作っているのは飲食店だと気付く。中でも客が殺到しているのは、寿司店だ。
2023年5月に調査会社・帝国データバンクが発表した「人手不足に対する企業の動向調査」を見ると、日本の人手不足は激しく、全業界では51.4%だった。飲食店の箇所を見ると人手不足は突出しており85.2%だった。
特に料理人の人手不足は深刻で、作り手が不在のために、閉店に追い込まれるケースもあるという。
そんな話を聞くと、「定年後も長く社会に貢献するために、飲食業界で働く道もあるのではないか」と思ってしまう。しかし、料理のスキルを身につけるには数年を要すと言われている。加えて、若者に交じって学校に通うのも、ハードルが高い。
そんな人に選ばれているのが、オンラインでの寿司職人を育てる『仮想個別指導メソッド』というプログラムだ。
運営しているのは、日本寿司リーディングアカデミー。自宅で一流の職人たちのリモート授業を受け、最低3か月間の受講と数回のスクーリングで、寿司職人への道が開くという。
開講の背景を代表・菊地英晃さんは、「日本のみならず、世界中で寿司職人の引き抜き合戦が激化しているからです」と語る。菊地さんは世界各国で飲食店を経営しており、飲食業界に詳しい。
「2013年にユネスコの世界文化遺産に“和食”が登録されました。その後、海外の日本食レストランの店舗数が、15年間で6.6倍に激増(2006年2.4万店舗→2021年15.9万店舗/『海外における日本食レストランの数』農林水産省)したのです。海外は特に、日本料理店の人手不足が深刻なのです」(以下「」内・菊地さん)
海外において、和食の代表格は寿司だ。今も、ニューヨーク、パリ、ロンドン、ドバイなどの都市での寿司店の人気は高い。当然、寿司職人は足らず、争奪戦の末、職人の年収が上がり続けているという。
「日本では年収が300万円だった寿司職人が、アメリカで年収3000~8000万円になることもあります」
その結果、寿司職人のヘッドハンティングが加熱。寿司職人を育てても、握れるようになると、どこからともなく人がやってきて、手塩をかけて育てた新人は気が付けばいなくなっているのだとか。
それから数か月後、見知らぬ新しい寿司店ができており、その店ののれんをくぐると、カウンターにかつての新人が“大将”として寿司を握っているという事態も起こっているという。
「どの店に聞いても、“育てても引き抜かれる”という状況が続いており、人手不足は深刻化する一方です」
理論を学び、動画を見ながら送付された魚をさばく
危機意識と需要増を見込んで、菊地さんは『仮想個別指導メソッド』を立ち上げる。一流寿司職人の授業をリモートで3か月学び、基礎を身に着けるという。
とはいえ、寿司だ。マグロ、アナゴ、鯛、ヒラメ、アジ、赤貝、イカ……魚介のさばき方も切り方もそれぞれ異なる。受講生はどのように学ぶのだろうか。
「実技の授業は、受講生の自宅に魚を送り、動画を見ながらさばいていきます。包丁の入れ方、動かし方、下処理の方法などを、動画を見つつ、魚をさばき、会得していくのです。理論については、寿司のノウハウを詰め込んだオリジナルの600ページの教科書を用意しました。寿司の歴史や魚の種類などについて詳しく解説しています」
この教科書は、魚のことから食品衛生まで網羅した盛りだくさんの内容。菊地さんが新人育成にかける意気込みが伝わってきた。
ところで、やはり寿司職人を志すのはどのような人なのだろうか。
「若い人もいますが、40~60代の社会人も多いです。第二の人生のために、手に職を付けたいと考える人は増えています。旨い寿司を握るためには、理論と反復練習あるのみ。皆さん、オンラインの口座で、お店で通用するような技術を身に着けています」
日本を代表する寿司職人が講師に
講師陣も豪華で、誰もが知る一流寿司職人がズラリ。会員制で待機が多数いることでも知られる『鮨佐がわ』の佐川雅温さん、『すし匠齋藤』の斎藤敏雄さんなど、政財官界の著名人から信頼され、彼らを唸らせる寿司職人が指導する。
動画を見ると、「ここまで教えていいのか」と思うほど、惜しみなく技術を伝えており、受講生は一緒に手を動かしながら、技術を身に着けていく。
「対面の授業では、先生(寿司職人1人)に対して、受講生は最大4名です。学校は洗い場が少ないこともあり、同時に手を動かすことはできません。また、素人の勘違いや思い込み、初心者にありがちなミスの個別指導を行なうのもなかなか難しい。その点、動画は細かいところまでしっかりと伝えることができます。寿司の味を損ねるようなクセが付くこともありません」
ARなど最新技術も取り入れている。一流職人が実際に魚をさばくところを、目の前で体感できるのも魅力だ。
では、実際どうなのだろうか。そこで、『鮨佐がわ』の佐川雅温さんと、寿司を握り始めて2か月の後藤理央さんが握った寿司を食べ比べることができた。
『鮨佐がわ』は限定100名の会員制のすし店で、入会金100万円が必要な高級すし店。
後藤さんは「今日初めて、お客様に私の握った寿司を召し上がっていただきます」と緊張の面持ちだ。さて、いったい何が違うのだろうか。
【寿司職人20年以上の技と、新人が握った寿司の違いとは……次のページに続きます】